サマリア

2005/2/10 東芝エンタテインメント試写室
女子高生の援助交際をモチーフにしたキム・ギドク監督作。
ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞。by K. Hattori

 『魚と寝る女』や『悪い男』で男に体を売る女たちを描いたキム・ギドク監督が、援助交際をする女子高生を描いた作品。タイトルの『サマリア』とは聖書に登場する地名で、ユダヤ人たちから異教徒として蔑まれていた人たちが住んでいた土地のこと。この映画は援助交際をする女子高生という、社会的には軽蔑されるであろうヒロインの立場を、差別の対象であったサマリアの女に重ね合わせたのだろうか。キム・ギドク監督の映画は象徴的なエピソードや道具立てで物語を寓話や神話のように仕上げていくが、今回の映画ではこの『サマリア』というタイトルを通して、現代のソウルを舞台にした、少女たちと、男たちと、ひとりの父親の物語は聖書の世界へとつながっていく。

 女子高生のヨジンは警察官の父親とふたり暮し。彼女はいつも笑顔を絶やさない親友のチェヨンとふたりで、見ず知らずの男たち相手に援助交際をして金を稼いでいる。体を売るのはチェヨンひとり。ヨジンは男たちとの連絡役であり、現場の見張り役であり、稼いだ金の管理役だ。本当のことを言えば、ヨジンはチェヨンが男たちに体を売ることが我慢できない。でもいつかふたりでヨーロッパ旅行するために、ヨジンは自ら進んで男たちに抱かれている。しかしある日チェヨンが男と入ったホテルに警察が踏み込み、彼女はヨジンや警官たちの制止も聞かずにホテルの窓から飛び降りてしまう。もろくも崩れた少女たちの夢。ヨジンは自分の手元に残された男たちの連絡先をもとに、かつてチェヨンを抱いた男たちに金を返す逆援交を始めるのだが……。

 映画は「パスミルダ」「サマリア」「ソナタ」という3つのパートに分かれている。第1部のでは女子高生ふたりの援助交際が招いた、悲劇的な結末までが描かれる。第2部では残されたヨジンが始めた逆援交と、それを知った父親の苦悩を描く。第3部はすべてが終わった後、車で旅に出た父と娘の交流がモチーフだ。第1部はヨジンの視点だが、第2部の途中で視点は彼女の父ヨンギへとバトンタッチし、第3部はさらに視点はふたりから離れて三人称の語りとなる。最後は監督が設定した風景の中に、登場人物たちが静かに同化し溶け込んでいくのだ。

 小道具を使った象徴的表現技法は今回もそこかしこに観られるし、水の中に主人公だけが浮かぶように取り残されるいつもの構図も最後に出てくる。激しいセックスシーンはないが、観ているこちらが青ざめるような暴力描写は健在。しかしこの映画には、これまで僕が観てきたキム・ギドク作品のどれよりも、穏やかで優しい温もりがある。それは少女たちの友情を描く場面や、父と娘の交流を描くシーンに満ち溢れている。映画の中のもっとも残酷でむごたらしいシーンですら、そこには人間の深い悲しみと愛が溢れている。

 主人公の女子高生たちを演じたクァク・チミンとソ・ミンジョンがいい。このふたりの今後には注目だ。

(英題:Samaritan Girl)

陽春公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:東芝エンタテインメント
2004年|1時間35分|韓国|カラー|ヴィスタ|SRD
関連ホームページ:http://www.samaria.jp/
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