スパイダー・フォレスト

懺悔

2005/1/13 映画美学校第1試写室
婚約者を殺された男が事故で意識不明の重態になるが……。
映画全体に漂う独特の雰囲気を楽しむ作品。by K. Hattori

 深い森の中にある廃屋のような家に惨殺死体がふたつ。死んでいたのは女性アナウンサーのスヨンと、その上司のジョンピル。現場の第一発見者であるプロデューサーのカン・ミンは、事件発生直後に現場から逃げた何者かを追うが、相手に殴られたうえ車にはねられ意識不明の重態に陥る。彼が意識を取り戻したのは、事件から14日後のことだった。カン・ミンは自分の身に起こった出来事を少しずつ思い出し、森の中で起きた殺人事件の謎に迫っていくのだが……。

 映画は殺人事件をめぐるミステリーとして始まるが、やがて主人公の「記憶」という底知れぬ迷宮へと分け入っていく。事件についての記憶、回想シーン、断片的に提示されるイメージ、本筋とは無関係に思われた小さなエピソード、刑事が探し回る事件についての手がかりなど、相互に無関係と思われていたパーツが最後にきれいにひとつにつながる様子はなかなか見事。映画全体を最後まで観ればなるほど「よくあるあの手」なのだが、こういうものはその結末に至る語り口の技巧をまず第一に楽しむものだろう。

 壁にぽっかりと極端に横長の窓が開いていて、その向こうに見える森の中に女がひとり立っているという導入部。この窓の形がぴったり映画のスクリーンサイズと相似形(実際には多少ずれる)ということに、一体どんな意味があるのかと思っていたのだが、これは映画を最後まで観ると「ああ、なるほど」と腑に落ちたりもする。しかしこれは「映画」がテーマではないから、わざわざこれほど不自然な形の窓を持ってくる必要はないのかも。

 物語の内容から来るものかもしれないが、この映画は絵作りがかなり技巧的。韓国語で原題がどんな意味なのかはよく知らないが、『スパイダー・フォレスト(蜘蛛の森)』というタイトルから僕は黒澤明の『蜘蛛巣城』を連想した。じつは映画の中には『蜘蛛巣城』そっくりのショットもあるのだ。主人公が精神的に追い詰められて周囲から孤立していくという全体の流れも、『蜘蛛巣城』と共通するように思うがどうだろうか。ただしこうした類似は全体の雰囲気についての話で、ストーリーそのものはまるで無関係だ。『蜘蛛巣城』も『スパイダー・フォレスト/懺悔』も、一種の怪奇譚である点は同じだけど。

 映画の最後が「あの手」なので、途中でどんなことが起きようと基本的には最後にどうでもよくなってしまうのだが、この映画の場合は通常の「あの手」にはない一捻りが用意されていて、映画を観ているこちらとしては複雑な気持ちにさせられてしまった。単なる「あの手」なら打ち捨てておける謎が、この一捻りによって観客の頭を悩ませる新しい謎を生み出すことになる。この謎の解釈については、観客によってかなりの幅がありそうだ。それによってこの映画はハッピーエンドにもなれば、その逆のまれに見るサッドエンディング、あるいはバッドエンディングにもなるだろう。

(英題:Spider Forest)

4月9日公開予定 銀座シネパトス、池袋シネマ・ロサ
配給:ムービーアイ エンタテインメント
2004年|2時間|韓国|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.zange-movie.jp/
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