北の零年

2004/12/03 スペースFS汐留
明治期の北海道を舞台にした吉永小百合主演の大作。
大きな欠点がいくつもあるけどいい映画。by K. Hattori

 江戸時代が終わって明治という新しい時代が始まった頃、住み慣れた土地を離れてはるばる海を渡り、北海道開拓に従事した人々がいた。この映画は明治4年に淡路島から北海道の静内に移住した稲田家の主従とその家族ら500名以上の実話をもとに、ひとりの女性が北の大地に根を張ってたくましく生きて行こうとする物語だ。稲田家が淡路島を離れるきっかけとなった庚午事変(稲田騒動)とその後の北海道移住などは、船山馨の小説「お登勢」にも描かれており、この映画では同じ作者の「石狩平野」と共に参考文献としてクレジットされている。(池澤夏樹の「静かな大地」に似ているとの話も。)

 主演は吉永小百合。監督は行定勲。製作費15億円。上映時間も3時間近い大作だ。もともと吉永小百合は船山馨の愛読者で、これまでにも「お登勢」や「石狩平野」を映画化する話があったがまとまらず、結局は今回の映画として結実したのだという。しかし正直言うと今回の映画のヒロインを吉永小百合が演じるのは、年齢的にかなり無理を感じてしまうのだ。少し長い年月(明治4年から10年まで)を扱った大河ドラマではあるが、主人公の小松原志乃は登場シーンでまだ娘時代の面影が残る20代の初々しさ、映画のラストでもせいぜい40歳に届くか届かないかではないのか。役年齢と実年齢のギャップは笑顔に現れる。吉永小百合の美しい笑顔は、残酷にもその実年齢をあぶり出してしまうのだ。『時雨の記』や『長崎ぶらぶら節』の彼女は素晴らしかったけれど、今回は観ていて辛い……。

 しかし吉永小百合というビッグネームが存在しなければ、おそらくこの映画は実現しなかっただろう。過酷な運命と闘う強靱な精神を持ちつつ、同時に愛する夫をひたすら待ち続けるというヒロインを、彼女以外の誰が演じればピッタリとはまるのか、僕にはよくわからない。テレビで最近お登勢を演じたのは沢口靖子。でもそれでは大規模予算の大型作品が成立しない。日本には「映画女優」がいないな〜と悲しくなる。たぶん吉永小百合はそんなことを承知の上で今回の映画に参加しているのだろう。今回の彼女は、渡辺謙、豊川悦司、そして石原さとみなど周辺の出演者たちを、できるだけ盛り立てようとしているようにも見えた。大型映画の企画を通すために自分の名前が必要なら、似合わぬ役でも引き受けましょう……といったところかな。違うかもしれないけど。

 ただこの映画、脚本があまり練れていないのが少々気になるのだ。脚本は先日『デビルマン』で不評を買った那須真知子。映画の前半は登場人物も魅力的でワクワクするような物語になっているのに、ヒロインが牧場を始めた後半はいかにもつまらないし、無理矢理に物語を終了させてしまったような唐突さを感じる。台詞に頼るシーンが多いし、時間経過もわかりにくく、結末はご都合主義もいいところではないのか?

1月15日公開予定 丸の内東映ほか全国東映系
配給:東映
2004年|2時間48分|日本|カラー|シネマスコープサイズ
関連ホームページ:http://www.kitano-zeronen.jp/
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