るにん

RUNIN - banished

2004/10/29 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ5
遠島で八丈島に流された男と女が出会い、愛し合うが……。
流人をモチーフにした異色の時代劇。by K. Hattori

 『少女〜an adolescent』に続く奥田瑛二2本目の監督作。江戸時代の八丈島を舞台に、流人たちの生活を描いた異色の時代劇だ。映画前半は島で知り合った年増の元女郎と若い博徒のラブストーリー。映画後半には主人公が島から脱出して江戸を目指すという、脱獄ジャンルに通じるドラマが用意されている。主演は松坂慶子と、バレエダンサーの西島千博。奥田瑛二本人も、裕福な流人の役で出演している。

 人気時代劇の「大岡越前」や「遠山の金さん」では、重罪人が「遠島申しつける!」と島送りの裁きを受ける場面がしばしばある。遠島というのは死罪と追放の間にある処分だというが、その実態がどんなものであったのかは、時代劇ファンもほとんど意識したことがないのではないだろうか。この映画は今まであまり描かれることのなかった遠島の実際を、資料に基づいて再現しているところが面白い。島には流人以外の村人も多く暮らしているし、流人の中には村人から嫁をもらうものもいる。流人たちはそれぞれの方法で自活した生活を送り、中には潤沢な資産を形成する者もいるほどなのだ。ただしそうして貯め込んだ金も、島の経済の中でしか使い道がないのだから、いざという時にはあまり意味がないといえばないのだけれど……。

 松坂慶子は濡れ場も含めてかなり大胆な芝居をしているのだが、相手役の西島千博にそれを受け止めるだけのキャパがなかったように思える。上背のあるガッチリした体格で、将来的な役者としての器の大きさを感じさせる彼は、スクリーンの中で故・松田優作にも似た男の臭いを感じさせる。いずれ大した役者になるかもしれない。しかしそれは「今」ではない感じだ。特に映画の後半では、役に必要な細かな心の動きを表現し切れたとはとても思えない。最後の最後にある大立ち回りも、動作ばかりが先に立って気持ちが付いていかない印象を受けた。これでは相手役の松坂慶子もちょっと気の毒。

 時代考証はかなり念入りに行っているようだ。八丈島のシーンは他と比較のしようがないのだが、映画の最後に用意されている捕り手を相手の大立ち回りはリアルだった。これが伊藤大輔の映画なら、街路をぎっしりと御用提灯が埋めつくし、しかも提灯に書かれた御用の文字は正面に大書してあるはず。しかしこの映画では、提灯の横に御用の文字が書かれているし、提灯の数も少ない。代わりにがん灯という一方向だけを照らす照明器具が登場する。捕り手は、十手、六尺棒、大八車、梯子などを総動員で主人公を捕らえようとする。主人公は手当たり次第に近くのものを使って、何とか捕り手から逃れようとする。

 このリアルな捕物の描写は最後に主人公を梯子に吊し上げて劇的に終わるのだが、ここに演出タッチの劇的変化を受け止めるだけの役者がいればなぁ……と、つい思ってしまった。意欲的な映画だけに、少し残念な気がする。

第17回東京国際映画祭コンペティション正式出品作品
企画・製作:ゼロ・ピクチュアズ
2004年|2時間29分|日本|カラー|1:1.85|DTS Stereo
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