愛の落日

2004/08/03 メディアボックス試写室
グレアム・グリーン原作の本格的な政治スリラー映画。
メロドラマ風の邦題にだまされた。by K. Hattori

 グレアム・グリーン生誕100年記念作品と銘打った政治スリラー映画。若く美しいベトナム人女性を巡って、初老のイギリス人ジャーナリストと若いアメリカ人が三角関係になるというストーリーに引かれたのか、邦題とメインビジュアルはメロドラマ風。しかし中身は戦争もあれば陰謀もあり、スパイもいれば暗殺もあるという本格スリラーなのだ。原作はグレアム・グリーンの「おとなしいアメリカ人」で、1958年にはジョゼフ・L・マンキウィッツの手で『静かなアメリカ人』として映画化されている。今回はクリストファー・ハンプトンとロバート・シェンカンがより原作に近い脚色に仕上げ、『ボーン・コレクター』や『裸足の1500マイル』のフィリップ・ノイスが監督している。

 1952年のベトナム。ロンドン・タイムズのベテラン記者トーマス・ファウラーは、故郷に妻子を残したまま美しいベトナム人女性フォングと同棲している。ふたりは深く愛し合っているが、ファウラーの妻は決して離婚に応じようとしない。そんな頃ファウラーは、アメリカの援助団体の一員としてベトナムにやってきたアルデン・パイルという青年と知り合う。だがパイルはフォングに出会うなり彼女に心惹かれ、ファウラーとの間に三角関係が生まれてしまう。しかし男女の恋と友情は別。ベトナム北部の取材でパイルに命を救われたファウラーは、フォングとの関係は別として彼に深い親しみと信頼を置くようになっていくのだが……。

 映画の冒頭でパイルが殺され、警察の取り調べを受けたファウラーがこれまでの経緯を回想していくという構成。回想形式とファウラーのナレーションによって、物語の要所だけをかいつまんで説明することができるという仕掛けだ。物語の序盤は三角関係のドラマがメイン。しかしある事件をきっかけにして、物語は急転直下、アメリカのベトナム介入にまつわる国際的な陰謀劇に転じていく。じつはその伏線は前々からあるのだが、それを巧みに「恋愛ドラマ」でカバーしているのはうまい手だ。

 ファウラーが最後に取る行動は、下手をするとパイルに対する嫉妬に見えてしまう可能性もある。しかしマイケル・ケインの説得力ある芝居は、観客にそうした誤解を与える余地がない。ブレンダン・フレイザー演じる繊細な青年像は『ゴッド・アンド・モンスター』で彼が演じた役を連想させるが、今回の役には二面性があって、映画の最後に隠されていた彼の本当の顔が見えてくるのもスリルがある。「そうか、そうだったのか!」と思わされるのだ。

 初老に差し掛かった新聞記者を演じるにしては、マイケル・ケインは少々年を取りすぎか。しかしこの年齢があればこそ、人生最後の恋に執着し続ける男の気持ちも必然性が出る。ラストシーンで、ファウラーが再びおずおずとフォングに近づいていくシーンの切ないこと! ふたりはその後の戦争をどう生きたのだろう。

(原題:The Quiet American)

今秋公開予定 日比谷スカラ座2
配給:エスピーオー
2003年|1時間41分|アメリカ|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.ainorakujitu.jp/
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