父親の死のショックから聴力を失ったコウは、ダンスに打ち込む少女ジェーンに出会い、互いに好意を持つようになる。だがふたりが親しく言葉を交わし始める前に、ジェーンは不慮の交通事故で命を落としてしまう。ジェーンはゴーストになってコウの前に現れ、仲間たちがダンスコンテストの本選に進む様子を見守りたいと頼む。こうして一緒に行動するようになったコウとジェーンは、死者の魂を運ぶ黄泉の番人の追跡をかわしながら、本選当日までの1週間を過ごすことになるのだが……。
ニコラス・ツェーとカリーナ・ラム主演のファンタジー・ラブストーリー。死んだ恋人がゴーストになって現れるという話は『ゴースト/ニューヨークの幻』みたいだが、黄泉の番人に連れ去られた恋人を探し、主人公が黄泉の国をさまよう部分はジャン・コクトーの『オルフェ』みたいだ。不気味な黄泉の番人は、『フィッシャー・キング』の赤い騎士から影響を受けていることが明白。ダンスコンテストのシーンは『フラッシュダンス』などのダンスミュージカル。いろいろな映画から美味しいところを抜き出して1本の映画に仕立てた感じだが、あまり印象がばらばらになっていないのは、映画があくまでも主役のふたりを盛り立てることに徹しているからだろう。
コウの耳が聞こえないという設定がどこかで効果的に行かされるのかと思ったら、これがそれほど重要性を持っているとは思えないのは残念。タイトルにもなっているティラミスも、あまり物語の本筋には食い込んでこない脇の小道具に終わっている。映画の幹になるストーリーラインはちゃんとできているし、そこに小さな葉っぱ(小エピソード)もたくさん生い茂っているが、全体のボリュームを生み出す枝ぶりが貧相なのだ。主役ふたりだけで映画を引っ張るにしても、もう少し脇からの支えがほしかった。
売れっ子のニコラス・ツェーは今回どちらかというと引き立て役で、中心に立っているのはカリーナ・ラムだろう。『カルマ』も『ヒロイック・デュオ/英雄捜査線』も観たけれど、今のところ日本公開作ではこの映画が彼女のベストだと思う。
それにしても香港映画はアクションを撮るのが巧い。今回の映画に乱闘シーンはないのだが、白熱のダンスシーンは本当にニコラス・ツェーやカリーナ・ラム、キャンディ・ローなどが踊っているように見えるから大したもの。実際はロングの絵で逆行にしたり、俯瞰で頭の上から見下ろしたりしているので、実際に本人たちが踊っている場面はほとんどないと思う。それでも流れの中で決めポーズだけをビシッと決めると、それがアクセントになって全体が本人のものになってしまうのだ。ただしダンスシーンの中に、これはすごいと唸らせるようなものはなかったのが残念。
話もいささか中途半端に終わってしまった印象が強い。どんな無茶をしても、最後はハッピーエンドが観たかったなぁ。
(原題:恋愛行星 Tiramisu)