マインド・ゲーム

2004/07/12 アスミック・エース試写室
日常と非日常が大胆な交歓を果たす異色アニメーション。
エロチックなシーンもなかなかのもの。by K. Hattori

 漫画家の西は中学時代に付き合っていた初恋の女性みょんと電車の中で偶然再会し、彼女が姉と営んでいる焼鳥屋を訪れた。だがそこやってきたのは、姉妹の父親から借金の取り立てをしようとする二人組のヤクザ。店の中で好き勝手に暴れ回るヤクザたちに、西はむざむざと殺されてしまう。西は一度あの世に行くが、根性と執念でこの世に舞い戻ってヤクザに反撃。姉妹の手を取って猛ダッシュで逃げ出した。西の運転する車が追いかけてくるヤクザたちを振り切るように橋から海にダイブした時、海から巨大なクジラが現れて車をひと飲みしてしまうのだった……。

 ロビン西の同名コミックを、「クレヨンしんちゃん」や「ちびまる子ちゃん」のアニメーター湯浅政明が脚色・監督した長編アニメーション。製作は『アニマトリックス』にも参加したSTUDIO4℃。ボイスキャストに吉本興業が全面協力し、主人公の西に今田耕司、主人公たちが出会うじいさんに藤井隆、みょんの恋人りょう役に山口智充、姉妹の父に坂田利夫、ヤクザの親分に島木譲二、凶暴なヤクザのアツに中條健一などが揃っている。前編コテコテの大阪弁なのだが、みょんを演じる前田沙耶香とヤン役のたくませいこも大阪出身。ここまで大阪弁丸出しのアニメは、日本映画初かもしれない。大阪を舞台にしたドラマや映画ですら、もう少し「大阪度」は低いと思うぞ。

 実写とアニメを奔放に組み合わせ、アニメも絵柄がコロコロ変化するという作品だが、こうした変化がストーリー展開のスピードを生み出すし、荒唐無稽にとんだりはねたりする物語にうまくマッチしていると思う。おそらくこの映画を統一した調子で描こうとすれば、物語のスピードに絵が負けてしまうのではないだろうか。破れ目さえ気にせずどんどん前に進んでいくストーリーと互角に対峙するには、このぐらいぶっ飛んだ表現手法が必要なのだろう。

 映画は西の主観で描かれるのだが、彼の浮き沈みする心理状態をダイレクトに絵柄の変化に託している部分はアニメならではの表現だと思う。この映画の中では物体の物理的な動きのリアリズムより、主人公の西という人間の中で起きている心理状態のリアリズムが優先されている。実写とアニメが交互に現れるという演出も、そうした心理描写のひとつだ。しかしこうして小出しにされていた心理描写が、一気に花開くのは西とみょんがついに結ばれるシーンだろう。このセックスシーンは『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』に匹敵するかも。クライマックスの脱出シーンも、あまりの荒唐無稽さに呆れながら、やはり手に汗握ってしまう名場面だと思う。

 物語に「すべて幻想だった」と解釈できる余地を少しずつ残してある小ずるさに、思わずニヤリとさせられる。この映画を明るい映画と判断するか、それとも暗い映画と解釈するかは、観る人の心次第なのかもしれない。僕はハッピーエンドと受け止めた。

8月7日公開予定 シネクイント
配給:アスミック・エース 宣伝:プチグラパブリッシング、アニープラネット
2004年|1時間43分|日本|カラー|スコープサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.mindgame.jp/
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