スターは俺だ!

2004/06/19 パシフィコ横浜
フランスの国民歌手クロード・フランソワのそっくりさんが主人公。
モノマネ芸人は本物の人生さえ模倣する。by K. Hattori

 60年代にフレンチ・ポップスの世界で大人気だったクロード・フランソワのそっくりさんとして、各種イベントやテレビ番組で大人気だったベルナール・フレデリックは、妻ヴェロのたっての願いで堅気の道を歩み始め、今では銀行の融資担当係に納まっている。そんな彼のもとに、芸人時代の相棒クスクスから連絡が入る。テレビ局主催のそっくり大賞で、かつての芸を披露してみないかというのだ。ヴェロの手前この依頼を断り続けたベルナールだったが、何年ぶりかで衣装の袖に手を通せば、思い出されるのはかつての栄光の日々。かくしてベルナールは妻や勤め先に内緒で、そっくりさん業に復帰することになったのだが……。

 監督はこれがデビュー作というヤン・モワクス。ジャーナリスト出身の小説家である彼は、実際に数多くのモノマネ芸人を取材してこの映画の原作となる小説を書き上げた。原題の『Podium』というのは、68年にクロード・フランソワが創刊した雑誌のタイトルだという。主演は『ありふれた事件』や『ル・ブレ』のブノワ・ポールヴールド。相棒クスクスを演じているのは『バティニョールおじさん』のジャン・ポール・ルーヴ。主人公の妻をジュリー・ドパルデューが演じている。

 主演のポールヴールドはモノマネ芸人になりきるために、毎日数時間も歌とダンスのレッスンに費やしたという。その成果は迫力満点のライブシーンにすべて現れている。特にダンサーを従えて雨上がりの駐車場で歌い踊るシーンは最高。

 モノマネ芸人がいかにして対象者本人に成りきっていくかが、豊富なエピソードと共に描かれているのが面白い。モノマネ芸人は歌や振付やコスチュームなどの「外面」だけでなく、対象となる人物の生き方さえも模倣し始める。大スターのそっくりさんというエンターテインメント業界の中ではマイナーな地位にある人間が、大スターと同じように尊大に振る舞い始めるのは痛快であると同時に、滑稽で悲しい光景だ。「クロード・フランソワはダンサーなしには踊らない」と啖呵を切り、ピザ屋の駐車場で踊るのは構わない。でも家族を顧みずにダンサーとねんごろになり、「俺はスターなんだからこのぐらい当然」と言い始めると、それは勘違いも甚だしいと誰もが思うだろう。

 クロード・フランソワは39歳の若さで風呂場で感電死するのだが、家族に棄てられにっちもさっちも行かなくなったベルナールが、同じように風呂場で感電自殺を図ろうとするシーンはこの映画最大のクライマックスだろう。ここでベルナールとクロード・フランソワの人生は完全に重なり合ってしまう。そしてベルナールは夢の中で、憧れの人クロード・フランソワ本人と「コム・ダビチュード(マイ・ウェイ)」をデュエットするのだ。

 フランスの国民歌手クロード・フランソワだが、日本では現在CD発売なし。面白い映画だけど、これじゃ日本公開は難しいかも。

(原題:Podium)

6月19日上映 パシフィコ横浜
第12回フランス映画祭横浜2004
配給:未定
2002年|1時間30分|フランス|カラー
関連ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/
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