アニエス・ジャウイとジャン=ピエール・バクリが脚本を書き、ジャウイが監督したホームドラマ。女優を目指して声楽のレッスンを受けているロリータの父は、エティエンヌという有名作家。だがロリータ本人は人並み以上のポッチャリ体型で、誰からも構ってもらえない、愛されていないというコンプレックスを持っている。父は再婚したばかりの若い妻に夢中で、娘のことは二の次三の次だ。口先では上手いこと言っても、実際はまるで娘に無関心。「お前の歌が聴いてみたい」と言ったことから娘が寄越した録音テープも、封筒の封さえ切らないまま放り出してある始末。
主人公は劣等感の固まりのような二十歳の演劇学校生ロリータ。演じているのはこれがデビュー作となるマリルー・ベリで、伯父さんがリシャール・ベリ、母がジョジアーヌ・バラスコという芸能界のサラブレッドだ。役柄どおりかなり立派な体格なのだが、初主演映画とは思えないような堂々とした演技を見せる。子供の頃から芸能界で育っていると、芝居度胸が座っているのかな。ロリータの父エティエンヌを演じるのはジャン=ピエール・バクリ。監督のアニエス・ジャウイも声楽教師の役で出演している。
この映画は登場人物の全員が生きる上での勇気や自信を失っている。「私は誰からも愛されてない」というロリータは言うに及ばず、彼女から見れば十分に社会の成功者に思える人たちも、それぞれが悩みを抱えて何をするにも浮き足だっている。父のエティエンヌは国民的な有名作家だが、ここ数年はまったく本を書いていない。創造の泉が枯渇してしまったように、1行の文章も浮かんでこないのだ。声楽教師のシルヴィアは歌を教える仕事に意欲を失いかけ、夫ピエールの子供との関係に悩んでいる。ピエールは作家としてなかなか芽が出ないことを不甲斐なく感じているし、新聞の書評が好評でいきなり脚光を浴びたら浴びたで、何か自分には似つかわしくないような気分を味わう羽目になる。
映画の中心になるのはロリータと父親の関係だ。父親にまったく振り向いてもらえないことに悩みながらも、健気に振る舞う娘の姿が痛々しいほどリアルに描かれている。ヒロインの周囲にいる大人たちの姿は、現在のジャウイやバクリらと等身大の日常という感じがするけれど、ロリータの造形にあたっては、ジャウイ監督自身が思春期に自信喪失に陥った体験がもとになっているらしい。思春期や青春期特有の感覚をこれほど鮮明に記憶しているというのは、やっぱり才能の一種だと思う。僕なんて自分が学生時代だった頃のうっとうしさを、もう粗方忘れてしまっている。普通嫌なことは早く忘れるもんです。
結構切実なテーマの作品なのだが、映画はユーモアたっぷり。もっとも残酷なシーンにこそ、もっとも笑いがある巧みな構成になっている。エティエンヌがいきなり新作の構想を思いつくシーンの面白さと残酷さ。上手い!
(原題:Comme une image)