炎のジプシーブラス

地図にない村から

2004/06/04 シネカノン試写室
ルーマニアのジプシー楽団ファンファーレ・チォカリーア。
その世界ツアーを記録したドキュメンタリー。by K. Hattori

 ルーマニアの北東にあるゼチェ・プラジーニ村には、ファンファーレ・チォカリーアというジプシーブラスのバンドがある。ゼチェ・プラジーニは人口400人という地図にも載らないような小さな村だが、ファンファーレ・チォカリーアはこれまで何枚ものCDを出し、世界ツアーをすればどこも大入り満員という人気バンドなのだという。彼らは4年前にも一度来日公演しているのだが、この夏には2度目の来日公演を計画。『炎のジプシーブラス/地図にない村から』は、それを記念して公開されるファンファーレ・チォカリーアについてのドキュメンタリー映画だ。

 ファンファーレ・チォカリーアの結成は1996年。ジプシー音楽に魅せられたヘンリー・アルンストというドイツ人がルーマニアの村々を旅している中でゼチェ・プラジーニ村のブラスバンドに出会い、その超絶技巧に驚嘆したのだという。当時はルーマニアでも冠婚葬祭にブラスバンドを呼ぶ習慣が廃れており、音楽家たちは経済的にまったく報われない状態になっていた。「これを都会や海外に持って行けば絶対に受ける!」と確信したヘンリーは自らマネージャーになることを決めて村に住み着き、ドイツやフランスに遠征して大成功。現在はもうひとりのマネージャー、ヘルムート・ノイマンと共にベルリンに事務所を構えるまでになっているそうだ。

 ドイツ人のマネージャーが付こうが、ベルリンに事務所があろうが、海外でどれだけ高く評価されようが、ファンファーレ・チォカリーアの根っこは今もゼチェ・プラジーニ村にある。バンドのメンバーたちは海外遠征やCD発売で稼いだ金を村に持ち帰り、家を建て替えたり教会を建てて村を豊かにしていく。映画の副題になっている『地図にない村から』という立場を、常に守っているのがこのバンドの特徴なのかもしれない。

 映画はひとりの少年が湖でホルンを拾うところから始まる。村の楽器職人に頼んでホルンを修理し、自分もいつかはファンファーレ・チョカリーアに入りたいと言うこの少年のエピソードは明らかなフィクションだが、このフィクションが映画のテーマにつながっているのだ。湖の氷の中からまるで掘り出されたように現れる楽器は、この土地から音楽が生まれてくることを象徴している。壊れて棄てられた楽器は、かつて村の誰かが使っていたのだろう。楽器は世代を越えて、次の世代を担う若者の手へと引き継がれる。楽器が直接手渡されるのではなく、一度棄てられて、それから拾われるというところが重要。少年は誰のものとも知らずに、自分の楽器を手にする。この楽器はジプシー音楽そのものの象徴なのだ。

 映画の最後の方には、4年前に行われたファンファーレ・チォカリーア初来日ツアーの様子が収録されている。外国映画の中に見慣れた街並みが登場するのは変な気分。試写室のある渋谷の風景などは、特に奇妙な感じがしました。

(原題:Brass on Fire)

7月3日公開予定 吉祥寺バウスシアター
配給:プランクトン 配給協力:ムヴィオラ
2002年|1時間38分|ドイツ|カラー|35mm
関連ホームページ:http://www.plankton.co.jp/brassonfire/
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