青の塔

2004/05/26 TCC試写室
引きこもりをモチーフにした坂口香津美監督のデビュー作。
前半はすごいと思うが後半はなぁ……。by K. Hattori

 19歳の透は、もう何年も引きこもりの生活をしている。母がマッサージの仕事で家を出て行く時間になると部屋を出て、母が用意した食事を食べ、懐中電灯を持って近所を歩いて回る。空が白んでくると部屋に戻り、母が帰宅する頃にはもう自室にこもる。唯一の趣味はミジンコの飼育と観察。時折ノートを引っ張り出して、時々の自分の気持ちを綴っている。そこに書かれているのは、幼い頃に自分の不注意から妹を死なせてしまったという自責の念。だがある晩、透は深夜の散歩の途中で倒れて凍えている少女を見つける。透は意識のない彼女を、妹の分身のように思って自宅に連れ帰る。やがて少女は目を覚ますのだが……。

 坂口香津美監督が『カタルシス』以前に撮った長編初監督作。引きこもりの子供を持つ家庭の様子をリアルに描写した映画前半は、ドキュメンタリーのような迫真性がある。『カタルシス』は登場人物たちを生活から引きはがし、海辺の小屋という劇的な空間に閉じこめたことで生じる寓話風のドラマだったが、この『青の塔』はそれとはまったくの逆。母子が暮らしている家はどこもかしこもその家特有の生活臭が漂ってきそうだし、母が働くマッサージサービスの様子も、いかにもそうであろうという真実味が感じられるのだ。母子が起床してから就寝するまで、1日の様子を延々と描写していく様子はしつこいほど。だがこのしつこさが、会話や台詞の少ないこの映画の中で、何よりも母子の心情を雄弁に語っている。

 映画は透が部屋に少女を連れ帰ってから急展開するのだが、残念ながらここを境にして、映画の前半が持っていたスーパーリアリズムの迫力は薄れてしまう。日常の細部を淡々と描くことで、母子の抱える葛藤や問題を無言の中であぶり出していた映画は、少女が登場したことで「癒しと救済」というわかりやすい紋切り型のドラマに取り込まれてしまうのだ。傷ついた少女を助けることで、傷ついた透の心は癒される。少女を部屋に入れることで、透は自分の城だった部屋から外に出ざるを得なくなる。母と子は少女を媒介にしてコミュニケーションを回復し、透は少女と言葉を交わすことで自分の過去と向き合い、やがて引きこもり生活から脱していく。わかりやすいが、こりゃ陳腐だろうよ!

 この映画では透が引きこもっている理由が「妹の死に対する自責の念」であるかのように描写されているのだが、これは後付の理屈ではないだろうか。実際にはもっといろいろな要因があるはず。母子の生活描写のきめ細かさに比べて、少女のバックボーンがまったく見えないのも不満な点だ。プレス資料には背景が説明されているけれど、映画からはそれが伝わってこない。映画にとって必要な情報は、きちんと映画の中で完結するように説明しておくべきではないだろうか。母子が映画の中で確かに生きていたのに対し、この少女には人間らしい息づかいが感じられない。

7月24日公開予定 シネマ・アートン下北沢
配給:アルゴ・ピクチャーズ
2000年|2時間26分|日本|カラー|スタンダード|キネコ
関連ホームページ:http://www.supersaurus.jp/bluetower.html
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