新・O嬢の物語

2004/05/19 TCC試写室
古典となっている文芸ポルノの現代風リメイクだが、
原作とは似ても似つかぬ内容。by K. Hattori

 1954年に匿名の著者ポーリーヌ・レアージュの名で出版された「O嬢の物語」は、これまでに何度も映画化されている。1975年にもジュスト・ジャカン監督によって映画化された同名映画が一番有名。(続編と銘打った『O嬢の物語・第二章』という映画が84年に作られているが、これはキャラクターを借りただけだろうか。)92年にアメリカ・フランス合作でテレビ用のミニシリーズも作られており、これは500分という大作。逆に短いものでは、79年にはラース・フォン・トリアーが作った短編映画があるらしい。またレアージュが書いた原作の続編「ロワッシーへの帰還」をもとに、寺山修司は『上海異人娼館/チャイナ・ドール』(81年)という映画を作っている。

 『新・O嬢の物語』はこうした先行作品に続く、新しい「O嬢の物語」だ。主演はダニエル・シアーディ。監督・脚本はフィル・レイルネス。物語の舞台は現代のアメリカに移し替えられている。ヒロインOの職業がカメラマンになっていたり、Oが最後にスティーヴンの手に焼き印を押すという描写は、レアージュの原作ではなく75年の映画版をもとにしているようだ。

 ヒロインが恋人ルネに誘われるまま倒錯したマゾヒズムの世界に入り込み、やがてスティーブンという別の男に譲り渡され、彼を愛するようになる……という物語の枠組みは原作と同じ。だがこの映画ではOが虐待を忍従する理由が「本の出版のための援助を得るため」とされ、原作の持つ「究極の愛の物語」という要素はあっさりと消え去っている。Oはルネにもスティーヴンにも「隷属」しない。彼女は経済的な援助を得るために、スティーヴンと互角の取引をしているだけなのだ。彼女に求められるのは奴隷の身へと際限なく堕ちていくことではなく、7つの試練を乗り越えて7つの腕輪を集めること。ここに支配と非支配の関係はない。すべてはゲームなのだ。

 この映画の中には「愛する者のために苦痛を堪え忍ぶ喜び」も、「自我を捨て去り我が身と命を他人に完全に委ねる快楽」もない。この映画のOは最初から最後まで、自分自身の主体性を確保したままだ。つまりこれはレアージュが描いた「O嬢の物語」とはまったく別種の物語になっている。この映画の作り手たちは、虐待する者と虐待される側を結びつける関係に「愛」を見ることができず、単なる「経済支援」の問題に置き換えてしまったのだ。虐待の中でグロテスクな性のオブジェへと変貌しながら光り輝く原作のヒロインは、こうして利己的な援助交際女に姿を変える。

 どうせ原作を改竄してしまうのなら、7つの腕輪と7つの性の冒険というアイデアをふくらませて、もっと色々なセックスのバリエーションを見せるなど、別の工夫をすべきだったのではないだろうか。ヒロインの冒険をコミカルに明るく描く、まったく新しい「O嬢の物語」を作れる可能性もあったと思うけど……。

(原題:The Story of O: Untold Pleasures)

6月26日公開予定 銀座シネパトス
配給:マクザム
2003年|1時間42分|アメリカ|カラー|ビスタ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.maxam.jp/news/9/ozyou.html
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