氷の国のノイ

2004/04/16 シネカノン試写室
アイスランドの小さな町で煮詰まっていく孤独な青春。
暗い話だし後味もあまりよくない。by K. Hattori

 アイスランドの北の果て、人口千人にも満たない小さな町は、17歳のノイにとって居心地の悪い場所だった。ノイは学校にほとんど行かない札付きの不良。友だちもほとんどいない。家族もバラバラ。彼には落ち着ける居場所がまったくないのだ。そんな彼の前に、イーリスという女の子が現れる。都会から町に戻ってきたという彼女は、はみ出し者のノイと意気投合。いつか一緒に町を出ようと約束するのだが……。

 アイスランドで生まれ、デンマークで映画を学んだ、ダグール・カウリ監督の長編デビュー作。小さな町で煮詰まっていく孤独な青春を描いた作品だ。主演はトーマス・レマルキス。物語は小さな町から一歩も出ないし、登場人物も数が少ない。ノイは札付きの不良という設定なのだが、それも学校にろくすっぽ通わないとか、未成年なのに酒を飲んだりタバコを吸ったりするとか、スキンヘッドにしているとか、ガソリンスタンドのスロットマシンから小銭をちょろまかすとか、そういう細かいレベルでのお話。誰かに暴力を振るうわけでもないし、極端に反社会的な行動を取るわけでもない。

 要するにノイを包み込んでいるのは倦怠感なのだ。学校がイヤ。家にいるのもイヤ。町の中には面白いことなんて何もない。ノイにとってただひとつの安息の場所は、家の地下室だけなのだ。彼がイーリスに心惹かれるのは、彼女が特別な美人だったからではなく、彼女から「町の外の空気」を感じたからだろう。ノイは彼女を通じて、自分の知らない外の世界に触れたいと思う。小さな町の中で精神的に窒息しそうになっているノイは、彼女と会っている時だけ、楽に息をすることができるような気がするのだ。

 「青春映画」に不可欠なのは、何者でもない人間が何者かになろうと悪戦苦闘するドラマだ。『氷の国のノイ』の主人公は何者でもない人間だが、彼がもがいているのは「何者かになる」ためではない。彼は自分が町にいる限り、「何者でもない自分」から抜け出せないと感じているのだ。精神科医が「天才」と呼ぶノイにとって、生まれ育った町は自分を閉じこめている檻なのだ。かつて自分が小さかった頃はその檻の狭さに気づかなかったが、青年になったノイにとって町は狭すぎる。でもそこから自力では抜け出せない非力さも、ノイにはついて回る。ノイは反逆のヒーローじゃない。ノイは何の力も持っていない、ごく普通の17歳に過ぎないのだ。

 映画はノイをどんどん逃げ場のない場所へと追いつめていく。そしてすべてが行き止まりになった次の瞬間、突然やってくる大きな事件。「死と再生」という通過儀礼をくぐり抜けて、ノイの悩みはすべて解決してしまったようにも見えるけれど、この皮肉な結末は、物語の終わり方としてはいささか子供っぽく無責任なもののようにも感じた。この後、ノイはどうなったんだろう。どうせならそこまで描いてほしい。

(原題:Noi Albinoi)

6月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:イメージフォーラム
2003年|1時間33分|アイスランド、ドイツ、イギリス、デンマーク|カラー
関連ホームページ:http://www.imageforum.co.jp/
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