CASSHERN

2004/03/24 イマジカ第1試写室
紀里谷和明監督による実写版「新造人間キャシャーン」は、
「新世紀エヴァンゲリオン」の香りがする。by K. Hattori

 1970年代に放送されていたテレビアニメ「新造人間キャシャーン」を、宇多田ヒカルの夫でもある紀里谷和明監督が映画化したSFアクション大作。この1作が成功すれば、紀里谷監督は今後「映画『CASSHERN』の紀里谷和明監督」と言われるようになるが、失敗すれば当分の間「宇多田ヒカルの夫」と言われ続けるという運命の分かれ道……。僕自身は今回の映画を観て、今後は「映画『CASSHERN』の紀里谷和明監督」でもいいんじゃないかと思った。大満足とまでは言わないが、まずまず合格点なんじゃないだろうか。

 物語は「新造人間キャシャーン」を踏まえながら、随所に現代的なアレンジを加えている。最大の違いはブライキングボス率いるアンドロ軍団を、主人公キャシャーンと同じ新造人間にしたこと。これによって、同じ東博士につくられた人工生命体同士が、敵味方に分かれて戦うという物語の構造がより強調されることになった。アニメ版で物語の背景にあった公害問題が、対テロ戦争に置き換えられているのも時代性だろう。

 この映画は原作アニメ「新造人間キャシャーン」以外にも、さまざまな作品から影響を受けている。例えばブライたち新造人間の誕生シーンで思い出されるのは、デ・ニーロが主演した映画『フランケンシュタイン』だ。そもそも「新造人間キャシャーン」という物語自体、人間が科学技術によって作り出した怪物が人間に復讐するという「フランケンシュタイン」と同じ物語構造になっている。それを証明するようにアニメ版のブライキングボスは、ボリス・カーロフの古典的な『フランケンシュタイン』をデザイン面で模倣しているのだ。それが今回の実写版『CASSHERN』では、より人間的な怪物に変身している。

 キャシャーンこと東鉄也や恋人のルナ、東博士と妻ミドリ、ブライ(ブライキングボス)と配下のアクボーン、サグレー、バラシンなど、ドラマの中心となるキャラクターはアニメ版と同じ名前になっているのが嬉しい。ロボット犬ではないものの、ちゃんとフレンダーも登場する。白鳥ロボットこそ登場しないが、ミドリがキャシャーンに語りかけるのは白鳥のオブジェの前だ。「新造人間キャシャーン」を毎回ドキドキしながら見ていた世代には、これだけでもう大満足。表面的な意匠で原典を尊重しつつ、物語世界に大きな変更を加える換骨奪胎の妙技。欲を言うなら「アンドロ軍団」という名称や、「ヤルッツェ・ブラッキン!」という敬礼のかけ声なども残してほしかった……。

 物語は途中からどんどん破滅色を強めて、「新世紀エヴァンゲリオン」めいてくる。鉄也と東博士の確執なんて、まるで碇シンジと碇ゲンドウの対立じゃないか。アクションシーンの絵コンテは「エヴァンゲリオン」にも参加していた樋口真嗣が担当。紀里谷監督が強く意識していたのは、「キャシャーン」よりむしろ「エヴァ」だと思う。

4月24日公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:松竹
2004年|2時間21分|日本|カラー|シネスコ
関連ホームページ:http://www.casshern.com/
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