SUPPINぶるうすザ・ムービー

2004/03/19 映画美学校第2試写室
俳優・今井雅之が自作の舞台劇を自らの手で映画化。
話に嘘があり、演出も舞台くさい。by K. Hattori

 俳優の今井雅之が、自作舞台を映画化した監督デビュー作。彼はこのあと舞台の代表作「THE WINDS OF GOD」を自身の手で再映画化することが決定済み。今回の『SUPPINぶるうすザ・ムービー』は、そのための肩慣らし、練習試合という意味合いがあるのかもしれない。でもこれを観ると、次の『THE WINDS OF GOD 〜KAMIKAZE〜』の出来映えが非常に不安になってくるなぁ……。

 『SUPPINぶるうすザ・ムービー』は、アル・パチーノの初期代表作『狼たちの午後』の滑稽で哀しいパロディだ。仲間が性転換手術を受ける費用を稼ぐため、銀行強盗で一攫千金を狙ったチンピラコンビ。だが行き当たりバッタリの強盗計画はいきなり頓挫し、主人公たちは人質を取ったまま警官隊に囲まれてしまう。

 話にかなり変なところがある。主人公・鉄雄たちは仲間のお瑞がモロッコで性転換手術を受ける費用として銀行から300万円を強奪しようとするのだが、その本人は銀行襲撃前に、既に手術を終えて帰国している。じゃあ最初から、銀行強盗の必要性なんてないんじゃないの? これはお瑞がモロッコに行く前に高利貸しから費用を借りていたとか、お瑞は豊胸と女性ホルモン注射で女性っぽくなっているものの、手術はいよいよこれからだとか、何らかの説明がないと話が最初から成り立たない。

 映画の舞台になっているような小さな町で、常習的なひったくりで生計を立てられるとは思えないし、まがりなりにもお金を扱う銀行が、身元も経歴も定かでない元ストリッパーを雇うとも思えない。銀行の外にいる警官隊は鉄雄以外に犯人の顔を知らないのに、銃を持って外に飛び出してきただけの人間をあっさり射殺するのも変だ。人質が犯人から武器を奪って逃げ出したのかもしれないじゃないか。

 映画などしょせんは作り事だ。細かいところに嘘があってもいい。銀行員がコーラスの練習をしていようと、女性行員たちがお泊まりセットを持っていようと構わない。そんなものは小さな嘘だ。でも物語を成立させる肝心要の場所に嘘があると、観客はもうその物語すべてを放り出したくなってしまうのだ。なぜ300万円が必要なのかぐらいは、きちんと納得のいく説明を用意してほしい。ちょっと知恵を絞れば、そのための理由付けなど幾らでも思いつくではないか。

 登場人物たちが常に大声で(腹式呼吸で)怒鳴り合うとか、台詞の前に自分の立ち位置まで歩いて出てくるなど、あまりにも舞台劇風の演出は鼻について仕方がない。映画にはクローズアップもカットバックもあるんだから、そうしたテクニックを使って舞台劇ではない「映画」を作ってほしかった。舞台演出出身の監督には優れた映像感覚を持つ人も多いのだが、この映画の今井雅之にそれは感じられない。舞台劇をただフィルムに移し替えても、それは「映画」にならない。それに彼はまだ気づいていないようだ。

3月13日公開 兵庫・豊岡劇場
5月8日公開予定 大阪・動物園前シネフェスタ4
5月15日公開予定 テアトル池袋
配給:SUPPINぶるうすパートナーズ
2004年|1時間55分|日|カラー
関連ホームページ:http://www.buttercine.com/suppin-blues/
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