トントンギコギコ

図工の時間

2004/03/04 映画美学校第1試写室
『こどもの時間』の野中真理子監督による新作ドキュメンタリー。
小学校の図工の時間は感動の連続だ。by K. Hattori

 埼玉県桶川市にある無認可の「いなほ保育園」を取材したドキュメンタリー映画『こどもの時間』の野中真理子監督が、今度は東京都品川区の公立小学校・品川区立第三日野小学校を取材したドキュメンタリー。タイトルにもあるとおり、今回の映画は「図工の時間」に焦点を絞っている。日本の小学校では週休二日制や「総合的学習の時間」の導入で、年々図工の授業時間が減っているのだという。しかしこの小学校では「総合的学習の時間」を図工に回して、1年生から6年生までが必ず週に1度は2コマ続きの図工の時間をあてがわれるようになっている。担当するのはクラス担任ではなく、図工専科の専門教師だ。この映画は図工室で夢中になって物作りに励む子供たちの姿を、インタビューや校外での取材も交えながら丁寧に追いかけていく。

 小学生の子供を持つ親でも、実際に自分の子供たちが学校でどんな顔をして授業を受けているかを知る人は少ないのではないだろうか。もちろん授業参観もあるし、最近は父母による学校訪問や授業見学を受け入れている学校もある。でも授業参観はしょせん「よそ行きの顔」なのだ。学校によっては授業参観の前に、綿密な予行演習をするという話さえある。でもこの『トントンギコギコ図工の時間』という映画では、そんな「よそ行きの顔」ではない本当の子供たちの素顔が見られる。取材のカメラは図工室から校庭、通学路、子供たちの放課後の遊び場まで付いていく。でも家庭の中には入り込まない。そこは「親が知っている子供の顔」の世界だからだ。映画はひたすら、普段は親から見えない子供の姿だけを追い続ける。

 この映画に登場する図工の時間は、初歩的なお絵かきや粘土細工から始まって、最後は1枚の板から自由にものを作る木工の卒業制作まで続く。それぞれテーマは設けてあるが、表現については「なんでもあり!」ということらしい。また制作中の作業についても、先生はあまり子供に口出ししないし、容易には手伝わない。生徒が悩んでいても「もうちょっと自分で考えてみろ」と突き放す。非力な生徒が工具を使いこなせず四苦八苦していても、ながめているだけで本人の工夫に任せる。工作の材料も授業で用意した以上のものが欲しければ「自分のお小遣いで買いなさい」と言い切る。その結果できあがる作品は、子供ならではの自由奔放な想像力が生かされたものになる。

 この映画から伝わってくるのは「自分の手でものを生み出す喜び」だ。人間は自分たちの手で、ありとあらゆるものを作ってきた。その原点が「図工の時間」の中にある。のこぎりで木ぎれを切断するというただそれだけの行為を、目をきらきらさせながら見つめ「すごい!」と驚きの声を上げる子供たち。そのスゴイことを、自分たちができるようになる喜び! そこから生まれる大きな自信。こんな図工の授業が、子供の情操に与える影響は大きいと思う。

5月1日公開予定 ポレポレ東中野
配給:「トントンギコギコ図工の時間」製作上映委員会、サスナフィルム
2004年|1時間39分|日本|カラー|ハイビジョン、16mm
関連ホームページ:http://www.mmjp.or.jp/pole2/
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