ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還

2004/03/03 丸の内ルーブル
「スペシャル・エクステンデッド・エディション」が早く観たい!
と思わせる物語の省略と駆け足ぶり。by K. Hattori

 3年越しの長い長い旅が、ようやく終わった。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の最終章となる『王の帰還』は、これまでの2本の映画で作られた物語世界とキャラクターを、それぞれのあるべき場所へと見事に着地させた堂々の完結編だ。しかし3時間半近い上映時間も、このドラマを語るには短すぎる。事前に前2作の「スペシャル・エクステンデッド・エディション」を観ていたせいかもしれないが、『王の帰還』はドラマがあまりにも駆け足で膨らみがない。アクションシーンのスペクタクル描写は見応えがあるが、登場人物たちの中で高まっていく様々な葛藤や和解のドラマにもっと時間を割いてほしかった。これはいずれ発表されるであろう『王の帰還』の「スペシャル・エクステンデッド・エディション」に期待するしかないのだろうか。

 この映画がアカデミー賞を総なめにしたのは、それなりに納得もできる。これは過去2作も含めた3部作全体に与えられた賞だと思う。でもこの3本目だけを1本の作品として観た場合は、かなり変なところも多いのではないだろうか。これは最初から「スペシャル・エクステンデッド・エディション」を最終完成型とした、劇場向けの「短縮バージョン」に思えてならない。例えばアラゴルンたちが海賊船と渡り合う場面が一切ないが、エンドロールに流れるスケッチには海賊たちの姿があるから、これは今回の映画でカットされてしまったのではないだろうか。サムがフロドを救出するため奮闘する場面は、オークたちがひしめく塔の中にサムが飛び込んだ次の場面ではもう決着が付いている。これじゃ山中貞雄の『丹下左膳餘話 百萬兩の壷』に出てくる丹下左膳だ。強すぎるぞ、サム! 何がお前をそうさせているんだ!

 最初からすべてを3時間半でまとめるつもりなら、エピソードを丸ごと省略するなどしてもっとまとまりのあるドラマを作ることもできたはず。しかしこの映画は「スペシャル・エクステンデッド・エディション」のために多くの場面を作ってしまい、それを間引く形で現在の劇場版を編集している。そのためフロドとゴラムの葛藤も、フロドとサムの和解も、アラゴルンがいよいよ「生まれながらの身分」に戻ろうとする決意の重さも、メリーとピピンの辛い仲違いと再会の喜びも、我が子への愛ゆえに正気を失っていくデネソールの苦しみも、アラゴルンと生きることを選んだアルウェンと父エルロンドの気持ちも、フロドの旅立ちへの決意も、すべてが駆け足で通り過ぎてしまうのだ。

 この映画はこれまで語られてきたドラマが集約し、濃縮していく最高のクライマックスとなるはずだが、そこに入り込んで行くには観客の側に相当の想像力が必要。感動に酔いしれる間もなく話が次に飛んでしまうため、観客の側には頭の切り替えの早さも必要。僕はこの映画でもっと泣きたい。泣ける場面をもっと長くしてほしい。ロングバージョンが早く観たい!

(原題:The Lord of the Rings: The Return of the King)

2月14日公開 丸の内ピカデリー1、丸の内ルーブル他・全国松竹東急系
配給:日本ヘラルド映画、松竹
2003年|3時間23分|アメリカ、ニュージーランド|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.lotr.jp/
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