ロスト・メモリーズ

2003/12/25 メディアボックス試写室
安重根の伊藤博文暗殺が失敗したもうひとつの朝鮮は……。
日韓の近代史をテーマにした韓国版『マトリックス』。by K. Hattori


 1909年10月26日。中国黒竜江省ハルピン駅で、初代韓国総督・伊藤博文は射殺されなかった。伊東を狙ったテロリスト安重根は警備兵に射殺され、翌年何事もなかったように韓国は日本に併合される。日本はその後アメリカと同盟関係を結んで第二次大戦を連合国の一員として戦い、原爆はベルリン上空で炸裂した。伊藤博文暗殺未遂事件から100年たった西暦2009年。東京・大阪に次ぐ日本で3番目の都市・京城(ソウル)で、世界の古代遺物を集めた「井上コレクション」の会場が朝鮮独立派のテログループに襲撃された。

 日本に併合されたままの朝鮮という、我々の知らないもうひとつの世界を舞台にした韓国のSF映画。韓国映画にもかかわらず、全体の半分以上のシーンで会話が日本語になっているという映画だ。主演は『友へ/チング』のチャン・ドンゴン。彼の同僚で親友の日本人警官・西郷を、仲村トオルが演じている。捏造された世界の中で暮らす男が、その世界の欺瞞を暴こうとする反乱グループと知り合い、自らも反乱グループに身を投じて英雄的な活躍をする物語は、世界的な大ヒットSF映画『マトリックス』の見事な換骨奪胎だ。

 ただしこの映画の設定は、韓国人の被害妄想的な歴史観の上に成り立っているものだから、日本人が観てもまるでピンとこない。そもそも安重根による伊藤博文暗殺が成功した現実の歴史でも、朝鮮半島は1910年から45年まで日本に併合されてしまうのだ。どうせタイムトラベルをするなら、最初から日本による朝鮮併合が起きないように別の歴史を作ればいいではないか。そうすれば日帝支配36年は存在せず、外交権剥奪も、皇族の退位も、創氏改名も、強制労働も、従軍慰安婦も、朝鮮の南北分断も、朝鮮戦争も、冷戦時代の過酷な軍政も、すべて存在しない世界に冠たる大韓国ができるのにね。

 「日本人がやったように、自分たちも朝鮮人にとって都合のいい歴史を作ろう」と主張する勢力が反乱グループの中にあると、この映画はもっとずっと面白くなったと思う。主人公は日本の都合のいい歴史を捏造する者たちに憤りを感じる一方で、朝鮮側の歴史改竄グループにも疑問を持つ。タイムトラベルの鍵となる遺物を手にした主人公は両方のグループから追われながら、人間の手が触れていない「無垢な歴史」を取り戻すためにたったひとりで時の門をくぐる……。この方がドラマとしては奥行きが深くならないかなぁ。

 日本に憧れながらも日本を憎み続けねばならない韓国の複雑な心情が、屈折した形で表現された映画だと思う。相棒の西郷から「俺はお前のことを朝鮮人だなんて思っていないぜ」と言われた時に見せる坂本の困惑した顔は、そのままこの映画の製作者たちや、この映画を観る韓国の若い観客たちの困惑した気持ちにつながっているのかもしれない。日本文化に引きつけらるほど、韓国人の民族意識がうずくのでしょう。

(原題:2009 Lost Memories)

3月公開予定 新宿ジョイシネマ
配給:GAGAアジアグループ、メディアボックス
宣伝:メディアボックス
(2001年|2時間16分|韓国)
関連ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/lostmemories/

DVD:ロスト・メモリーズ
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