半落ち

2003/12/24 東映第1試写室
横山秀夫の同名ミステリー小説を寺尾聰主演で映画化。
ちょっと演出がヌルイ。配役も弱いなぁ。by K. Hattori


 群馬県警の指導官・梶総一郎警部が、自宅で妻を絞殺して自首した。梶夫妻は数年前に息子を病気で失って夫婦ふたり暮らし。だが半年ほど前にアルツハイマー病を発症した妻は、急速に痴呆が進んでいた。「息子のことを忘れてしまう前に死にたい。どうか殺して」という妻の願いを叶えるため、梶警部は愛する妻を手にかけた。被害者自身が加害者に殺しを依頼した嘱託殺人。だが梶警部の供述には腑に落ちないことがひとつだけある。それは彼が妻を殺してから自首する前に、2日間の空白があること。その空白の時間を、梶警部は何に使っていたのか? やがて警察は梶警部が妻を殺した後、新宿の歌舞伎町に立ち寄っていた形跡を察知する。妻を殺した男が死体を放り出したまま日本一の歓楽街をふらついていた! 警察はこのスキャンダルを必死にもみ消そうとするのだが……。

 横山秀夫の同名ミステリー小説を、『陽はまた昇る』の佐々部清監督が映画化している。主人公の梶総一郎を演じるのは寺尾聰。梶は空白の2日について何も語らぬまま、身柄を警察から検察、裁判所へと送られていく。そして何も語らぬ梶の姿は、彼と出会った人々の心に深い波紋を投げかけていくのだ。取り調べの刑事、検察官、新聞記者、弁護士、そして裁判官までが、梶と向き合うことで自分自身の人生を問い直していく。

 映画前半はなかなか面白いのだが、中盤以降は視点が分散してドラマにまとまりがなくなってしまったと思う。これは原作の構成に引っ張られた結果かもしれないが、映画化するにあたって脚本の構成を大胆にアレンジしてしまった方がよかったのではないだろうか。黒澤明の『天国と地獄』のように、前半と後半で物語の主人公を差し替えてしまうくらいの大胆さが必要だったかもしれない。映画前半は梶と取り調べ警官のドラマで、映画の後半は取り調べにまったく手を触れていない裁判官のドラマにするか、裁判官は脇役にとどめて新聞記者の話にしてしまうか。やり方はいくつかあったと思う。

 映画前半では回想シーンを完全に封印していたのに、映画後半から回想シーンが使われ始める。どうせこれをやるなら後半は『砂の器』ばりに回想シーンで押しまくり、観客をたっぷり泣かせてくれればいいものを、この映画はそのあたりも少々手ぬるい。なんだか全体にすごく中途半端なのだ。泣かせるミステリードラマには『砂の器』もあるし、最近なら『絆−きずな−』があったし『マークスの山』もあった。それらに比べると、この『半落ち』はちょっと物足りない。

 寺尾聰というキャスティングもどうだったのか……。この役にはもう少し、裏が読めない奥深さがほしかった。寺尾聰はあまりにも「いい人」すぎるのだ。柴田恭兵と取調室で並ぶと、なごやかなムードさえ生まれてしまう。他のキャストとのバランスもあるが、寺尾聰と石橋蓮司を入れ替えると、ずっと面白くなったかもしれない。

1月10日公開予定 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映
(2003年|2時間1分|日本)
関連ホームページ:
http://www.hanochi.jp/

DVD:半落ち
原作:半落ち(横山秀夫)
サントラCD:半落ち
主題歌CD:声(森山直太朗)
関連DVD:佐々部清監督
関連DVD:寺尾聰
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関連DVD:原田美枝子

関連DVD:鶴田真由

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