サウンド・オブ・ミュージック

2003/12/01 20世紀フォックス試写室
世界で一番愛されている大作ミュージカル映画をリバイバル公開。
映画としての欠点を音楽がカバーしている面が多い。by K. Hattori


 御存じ1965年製作のミュージカル大作が、銀座テアトルシネマで開催される「テアトル東京クラシック」の第4弾作品として劇場公開される。「製作40周年記念」と銘打つニュープリントのデジタルリマスターバージョンで、画面の傷や音声のノイズはほとんどない。ただし映像はかなり退色してすすけた色に見えた。最初からこんな色だったとは考えにくいので、これはオリジナルのネガそのものが退色しているということだろうか。最近はデジタル技術で色を修復することもできるのだが、劇場上映に使えるクオリティで修復をするには莫大な費用がかかる。この映画のDVDは持っていないのだが、案外DVDの方がきれいな色なのではあるまいか。

 監督は1961年に『ウエスト・サイド物語』を作ったロバート・ワイズ。オープニングを空撮のモンタージュからはじめて徐々に対象に近づいていくオープニングは、『ウエスト・サイド』も『サウンド・オブ・ミュージック』も同じだ。この監督は『ウエスト・サイド物語』で成功した手法を『サウンド・オブ・ミュージック』にも持ち込もうとしているわけだが、この映画の場合はそれが成功していると思えない。世の中にはこの映画を「最高のミュージカル映画」と言う人が多いのだが、正直言ってしまえば、僕はこの映画を「ミュージカル映画としては二流以下」だと思う。

 『ウエスト・サイド物語』はロケや写実的なセットを多用し、物語に生々しいリアリティを与えることに成功した。『サウンド・オブ・ミュージック』はそれをさらに推し進めて、絵作りの面で徹底して写実にこだわっている。でもそうした写実性は、ミュージカル映画の生み出すリアリズムとは、まるで別種のものかもしれない。『ウエスト・サイド物語』の写実は物語のアクセントとして上手く機能していたけれど、『サウンド・オブ・ミュージック』はやりすぎで、かえって絵作りを不自由で貧しいものにしていると思う。

 例えば屋敷の庭のあづまやでリーズルとロルフが「もうすぐ17歳」を歌う場面や、修道院で院長が「すべての山に登れ」を歌うシーンは、暗がりで顔がまったく見えないのもお構いなし。これはこれで写実だと思うけれど、こんなのミュージカル映画としてどうなのかなぁ。そもそもミュージカルというのは、何もないところでいきなり人間が歌い踊るという、とても現実の世界ではあり得ないことをやっているのだ。それを強引に写実の世界に持って来たところで、チグハグになるだけだよ。

 映画の中でもっとも素晴らしいのは「ドレミの歌」。これは楽曲がいい上に、映画の写実とミュージカルのリアリズムが見事に一致している。ザルツブルク近郊でマリアと子供たちが歌い踊るモンタージュと、音楽の組み合わせが素晴らしい。この1曲だけでも大画面で観る価値ありだ。「私のお気に入り」もいいけれど、これは演出の上で舞台と大差なさそうだ。

(原題:The Sound of Music)

2004年1月公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:20世紀フォックス 宣伝:メディアボックス
(1965年|2時間55分|日本)
ホームページ:
http://www.cinemabox.com/

DVD:サウンド・オブ・ミュージック
サントラCD:サウンド・オブ・ミュージック
サントラCD:The Sound of Music (30th Anniversary Soundtrack)
サントラCD:サウンド・オブ・ミュージック(コレクターズ・エディション)
サントラCD:The Sound of Music (35th Anniversary Soundtrack)
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原作:サウンド・オブ・ミュージック
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