ブルース・オールマイティ

2003/11/26 UIP試写室
神様から1週間だけ全能の力を与えられた男がやったことは……。
ジム・キャリーの個人芸が少ないのは物足りない。by K. Hattori


 最近は本格俳優としても評価が高まっているジム・キャリーが、『エース・ベンチュラ』や『ライアー ライアー』のトム・シャドヤック監督と久々に組んで作ったコメディ映画。何をやっても運の悪いテレビ・レポーターのブルースは、「俺の運が悪いのは神様の怠慢だ!」と大憤慨。そんなブルースの声を聞き届けて、神様はブルースに1週間だけの代役を命じる。思ったことが何でもその通りになる全能の力を手に入れて、ブルースはトントン拍子に出世していくのだが……。

 神様を演じているのはモーガン・フリーマンだが、この神様がきちんと「キリスト教の神」になっているあたりはいかにもアメリカ映画。その最たるものは、たとえ神であっても人間の気持ちだけはコントロールできないという部分だろう。これは映画のために考え出された神の能力の限界ではなく、キリスト教では常識的な事柄。人間には自由意思があって、それについては神もコントロールできないのだ。

 お話としてはそれなりに面白くできていて、笑えるところも多い。しかしこれが『エース・ベンチュラ』や『ライアー ライアー』の監督主演コンビの作品だと考えると、僕はずいぶんと物足りなく感じるのだ。このコンビの過去2作は、もっと強烈な笑いがあった。観ているこちらが「ここで笑ってしまっていいのか?」と躊躇するような、暴力的なパワーを持っていた。それを生み出していたのは、多くの場合ジム・キャリーの個人芸。よく動く顔や、突然飛び出す奇声、そして誇張された身体の動き。キャリー演じるキャラクターがあれよあれよという間にぶっ壊れていく様子を、観客はリアルタイムに目撃しながら大声で笑っていたのではないのか。

 今回の映画には、以前のキャリー作品が持っていたアナーキーな笑いがない。この映画なら、別に主演がジム・キャリーでなくてもいいような気がする。もちろん映画の中には、これぞジム・キャリーだという瞬間が幾度か存在してはいる。しかしそこからかつての暴力的な笑いへとエスカレートする以前に、そこそこの笑いで満足してしまっているように見えるのはもったいない。これならぬいぐるみショーの『グリンチ』の方が、よほどキャリーらしかったのではないだろうか。

 キャリーの個人芸がはじけないせいもあって、この映画は全体に理屈っぽさや説教くささが目立つようになってしまった。ヒューマンな映画も悪くない。『ライアー ライアー』だって、基本的には父子の情愛の話だったりするのだ。でも『ライアー ライアー』には、観客を問答無用で抱腹絶倒させる名場面がいくつもあったではないか。今回の映画で、どこが一番面白かった? 同僚ニュースキャスターがヘマするシーン? それはキャリーの作った笑いじゃないぞ。

 『素晴らしき哉、人生!』のようなヒューマン・コメディを狙ったのかもしれないが、だとしたら泣かせどころが弱い。

(原題:Bruce Almighty)

12月20日公開予定 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:UIP
(2003年|1時間41分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.bruce-almighty.jp/

DVD:ブルース・オールマイティ
サントラCD:Bruce Almighty
輸入ビデオ:Bruce Almighty
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