恋する幼虫

2003/11/13 シネカノン試写室
売れない漫画家が女性編集者の頬に付けた傷からとんでもないモノが。
荒川良々と新井亜樹が主演のホラー・ラブ・コメディ。by K. Hattori


 青年コミック誌で連載を持つ西尾フミオは、個性的な作風で一部に根強いファンを持つ漫画家だ。だがその作風同様、本人の個性もかなり変わっていた。少年時代にイジメられっ子だったフミオは、精神的に追いつめられると、自分より体力に劣る者に暴力を振るう性癖があるらしい。新人編集者の藤井ユキに原稿のダメ出しをされたフミオは、手に持ったペンで発作的に彼女の頬を突き刺してしまう。もともとおとなしい性格のユキはこの事件をきっかけに引きこもり、化膿してただれた頬の傷は赤黒く腫れて大きく広がってしまった。雑誌の仕事を首になったフミオは彼女のアパートを訪ねるが、開き直った彼女はフミオに「食事を作れ!」「レバーを買ってこい!」などと大騒ぎ。あまりの豹変ぶりにフミオは恐れを抱きながらも、彼女の言いなりになってしまう。この気持ちはなに? やがて彼女の頬の傷からは、得体の知れない触手のようなものが飛び出し、彼女は人間の生き血を求め始めたのだが……。

 主人公フミオを演じるのは、『ピンポン』や『ロボコン』の個性的な脇役で知られる、劇団〈大人計画〉の荒川良々。彼に頬を傷つけられるユキを演じるのは、やはり〈大人計画〉の舞台で活躍する新井亜樹。監督の井口昇も〈大人計画〉の俳優だそうで、映画には〈大人計画〉の関係者が大勢出演している。劇団主催の松尾スズキがユキの恋人を演じているのだが、これがみょうに生々しくてリアルだ。プロローグのエピソードには唯野未歩子が登場して、とんでもない変態セックスを披露。フミオの同級生役で出演した乾貴美子も、「うわ〜、こういうヤツっているよなぁ〜」という役で笑わせてくれる。(こういう人って、僕は嫌いじゃないです。むしろ好きだなぁ。)

 企画・脚本も兼ねている井口昇監督は、自主製作した映画『クルシメさん』で知られている異能の監督らしいのだが僕は未見。それよりもAMAZONで商品検索したら、出てきたのが同姓同名のAV監督……と思った数十秒後、これがまぎれもなく井口昇監督本人だと知ってびっくり仰天。そうか、そうだったのか! でもなんだかちょっと納得。なんでだろう……。

 ストーリーラインはシンプルなのだが、上映時間は1時間50分と結構長い。かといって冗長な部分がまったくないのは、物語を構成するひとつひとつのエピソードの中身が充実しているからだろう。すべてのエピソードが、あるべき場所にきちんと収まっているのだ。登場人物は少ないが、キャラクターの肉付けは的確。物語の設定そのものは突飛だが、その物語の中でキャラクターひとりひとりがちゃんと生きている。こんな話なのに、ダメな男とダメな女のラブストーリーとして、きちんと成立しているのだ。

 ちなみに井口監督のスカトロAVも泣けるらしいです。ホントかよ。でもこの映画を観ると、それもあながちウソとは思えんなぁ〜。

2004年2月公開予定 テアトル新宿(レイト)
配給:イメージリングス
(2003年|1時間50分|日本)
ホームページ:
http://www.vesta.dti.ne.jp/~rings/

DVD:恋する幼虫
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