黒の怨

2003/11/13 ソニー・ピクチャーズ試写室
150年前に無実の罪で殺された老婆の怨念が小さな町を恐怖に陥れる。
暗闇を恐れる原始的恐怖に訴えかけるホラー映画。by K. Hattori


 アメリカの子供なら誰もが知っている「トゥース・フェアリー」は、抜け落ちた乳歯をマクラの下に隠しておくと、翌朝までに金貨に変えてくれる妖精だという。ただしトウース・フェアリーは恥ずかしがり屋で、人に見られるのを嫌う。妖精が来る夜は目を固く閉じて、決してその姿を見てはならない。もしも見てしまったら……。この映画はそんな「もしも」から始まるホラー映画だ。

 海沿いの小さな町ダークネス・フォールで暮らすカイル・ウォルシュは、最後の乳歯が抜け落ちた夜、部屋の暗がりでうごめく何者の気配を感じる。目をこらしても、部屋は真っ暗で何も見えない。その気配がベッドのすぐ近くにまで迫った瞬間、カイルは枕元の懐中電灯でその何かを照らし出す。それは白いマスクをつけた人間の姿だった。カイルの悲鳴に驚いた母親は、カイルの目の前でその何かに襲われて殺されてしまった。それから12年。大人になったカイルは、今もなお暗闇に潜む何かを恐れて暮らしていた。だが幼なじみケイトリンからの電話で、カイルは再びあの悪夢に引き戻されてしまう。

 「トゥース・フェアリーの姿を見てはいけない」という言い伝えに、「見たら殺されてしまうから」という理由をくっつけた面白さは、この言い伝えと無縁の日本人には到底理解できない。しかしこの映画の場合、こんな設定はモンスター出現の理由付けに過ぎない。映画のイントロで紹介されているマチルダ・ディクソンの伝説も同じこと。こうした能書きは、物語の中に観客を引っ張ってくるための道具でしかないだろう。この映画が描いているのは「暗闇が怖い」という感覚そのもの。人間なら誰しも本能的に持っている「暗闇への恐怖」を、そのままモチーフにしているのがこの映画だ。暗闇に潜むトゥース・フェアリーは、人間を殺すという明確な意志を持った「闇そのもの」なのだ。

 闇の化身であるトゥース・フェアリーを避けるため、自分を常に光の中に置いておかなければならないという設定は、単純なだけに効果的だ。非常電源のまたたく長い廊下を、スポット照明からスポット照明の間を飛ぶようにして駆け抜けていくシーンの面白さ。この映画はテレビやビデオで見ても面白くないだろう。映画館の暗闇でこの映画を観ると、スクリーンの中の暗闇と客席の暗闇がひとつながりに溶け合って、トゥース・フェアリーの潜む巨大な空間の中に観客自身が閉じこめられることになるからだ。

 トゥース・フェアリーと縁があるのは、乳歯が抜ける年齢の子供たち。今回はトゥース・フェアリーを見た子供が成長してからの物語だったが、そのものズバリ10〜13歳ぐらいのローティーン向けホラーとして、この映画がシリーズ化されれば面白いかもしれない。被害者は暗闇に引っ張り込まれて悲鳴を上げるだけだから、恐怖感の割には残酷描写が少ない。低年齢向けの作品としてはいいコンセプトだと思うけどね。

(原題:Darkness falls)

12月6日公開予定 新宿ジョイシネマ、シネマメディアージュ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(2003年|1時間25分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.sonypictures.jp/darknessfalls/

DVD:黒の怨
輸入ビデオ:Darkness Falls
サントラCD:Darkness falls
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