アイ・ラヴ・ピース

2003/11/06 渋谷シネフロント
義肢装具士志望の聾唖女性とアフガニスタン少女の交流。
忍足亜希子と大澤豊監督の『アイ・ラヴ』シリーズ第3弾。by K. Hattori


 聾唖の女優忍足亜希子と大澤豊監督による、『アイ・ラヴ・ユー』『アイ・ラヴ・フレンズ』に続く3本目の長編映画。出雲の義肢メーカーで見習い技術者として働く花岡いづみは、アフガニスタンで地雷被害を受けた人々のために働くNGOの依頼を受けて、同僚の久保と一緒に現地に行くことになる。現地で出会ったのは、義足を失ってふさぎ込んでいるパリザットという少女だった。いづみは日本に帰国した後も、ずっとパリザットのことが気になっていたのだが、NGOのはからいで彼女が来日し再会することができた。彼女のために最新の義足を作り、杖に頼らなくても歩けるようにしてあげたいと願ういづみ。だが脚を失ったときに心にもひどい傷を負ったパリザットは、なかなか自分自身の脚で歩み始めることができないのだった……。

 映画の半分は日本が舞台で、半分はアフガニスタンが舞台。大澤監督や主演の忍足亜希子らが実際にアフガンに行ってロケ撮影を行ったというのだから、これはなかなか勇気のいることだっただろう。映画の中ではいづみをアフガニスタンに送ることについて、メーカーの社長や夫人が心配そうな顔をする場面があるのだが、スタッフ・キャストを現地に送り出す家族もきっと同じ顔をしていただろう。一応の治安が回復しているとはいえ、アフガニスタンではまだ局所的な戦闘もテロ攻撃もある。生活道路の数メートル脇には、今もなお無数の地雷が埋まっているのだ。だが危険とわかっていても、今ここで我々が行かねばならんのだ! そんな使命感を持ってアフガンに渡る主人公たちの姿に説得力があるのは、映画の製作スタッフも同じ気持ちで現地に入ったからかもしれない。

 話を要約してしまえば、「地雷で脚を失ったアフガンの少女が義足で歩けるようになる」というもの。しかし義足そのものは、映画の中盤でさっさと完成してしまう。この映画が描いているのは、むしろ義足が作られた後のドラマなのだ。義足というモノが与えられれば、それでめでたしめでたしにはならない。義足を自分の足として自立自活の第一歩を踏み出すまでは、心のケアも含めた手厚い援助が必要なのだ。モノやカネだけでアフガニスタンは救えない。戦争の傷を癒すには、物心両面での全人格的援助が求められている。

 良心的で誠実ないい映画だし、感動的な場面も多い。しかし映画全体がきれい事に終始している印象も受ける。主人公が勤める義肢メーカーでは大勢の障害者が働いているのだが、その理由ぐらいは一言触れておいてほしい。障害者雇用に対する助成制度に少し触れたりすると、話がより生々しくなったと思う。

 アフガニスタンに帰るパリザットに、いづみが「自分の足で歩いてほしい」と涙ながらに訴えるシーンには感動した。言葉の通じない少女に、全身を使って気持ちをぶつけるヒロインの感情の高ぶりが、映画を観ている側にも伝わってくるからだろう。

第16回東京国際映画祭 リージョナル・フィルム
配給:こぶしプロダクション
(2003年|1時間58分|日本)
ホームページ:
http://member.nifty.ne.jp/kobushi-pro/

DVD:アイ・ラヴ・ピース
主題歌CD:I wish〜I hope(小野正利)
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