OPEN HOUSE

2003/10/31 松竹試写室
ようやく公開されることになった行定勲監督のデビュー作。
椎名英姫が初々しく、南果歩はやっぱりうまい。by K. Hattori


 行定勲監督が辻仁成の同名小説を映画化したデビュー作。6年前に製作されていたこの映画は、松竹の「シネマジャパネスク」という小さなチェーンが社内のゴタゴタで瓦解したことから公開めどが付かなくなってしまった。一般の目に触れたのは、5年前に「みちのくミステリー映画祭」で上映された時だけだ。行定監督はその後2作目の『ひまわり』が無事に劇場公開され、『GO』の高い評価で売れっ子の若手監督になっている。幻のデビュー作として永久にお蔵入り、もしくはこっそりビデオ発売でもして終わりかと思われていたこの作品が、無事に劇場公開されることになったのはめでたい。

 それにしても6年は長かった。辻仁成原作の映画に当時彼の妻だった南果歩が主演して、エンドロールでは主題歌を辻仁成本人が歌っているというだけでも、観客は時の流れを強く感じてしまうだろう。このふたりは3年前に離婚して、今じゃ辻仁成は中山美穂の旦那様である。しかしこの映画は「時の流れ」を感じさせながらも、「古さ」を決して感じさせない作品だと思う。新鮮な果実のような香りと淡雪のような繊細さで、都会暮らしをしている孤独な若い男女の心理を包み込むどこまでもソフトなタッチ。絵作りの面では軟調すぎてパンチ不足な部分もあるが、慎重すぎるほど慎重に対象に迫っていく演出の臆病さが、今を乗り越える次の一歩を踏み出せずにいる主人公たちの心理とうまく重なり合っている。たぶん今の行定監督なら、もう少し押すべきところを押し出してメリハリのある映画を作っていくだろう。しかしこの『OPEN HOUSE』ではそうしない、いや、そうできないところが作品の魅力になっているとさえ思うのだ。

 映画の中ではふたつの物語が小さな接点を持ちながら同時進行する。売れないモデルのミツワと、彼女の部屋にたまたま転がり込んだトモノリの生活。夫が出て行ったガランとした部屋の中で、残された荷物を片づけられないでいるユイコの暮らし。ミツワを演じているのは椎名英姫。ユイコを演じているのが南果歩。映画はふたりのヒロインの姿を等分に描いていくが、このふたりの間には特別な交流があるわけでも、エピソード間に密接なつながりがあるわけでもない。しかしこのふたつの物語がバラバラにならず、ゆるいまとまりを保ちながらひとつの映画として成立しているのは、この作品全体を包み込むトーンが統一されているからだ。それは映像であり、音楽であり、役者たちの表情だ。

 劇中でヒロインたちはいつも暗い表情のままだが、そんな彼女たちがふと見せるわずかな笑顔が、物語にサッと太陽の光が差し込んだような劇的効果を生み出している。中でも南果歩演じるユイコが、ビデオの中で自分の笑顔を見つけるシーンは感動的。ビデオの中にある100%純粋な笑顔を、いつか彼女は取り戻すことができるのだろうか? ここには残酷さと優しさが同居している。

12月13日公開 シネ・リーブル池袋(レイト)
配給:松竹
(1997年|1時間54分|日本)
ホームページ:
http://www.shochiku.co.jp/

DVD:OPEN HOUSE
原作:オープンハウス(辻仁成)
主題歌収録CD:Sq.-スクエア-(辻仁成)
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