いつかA列車〈トレイン〉に乗って

2003/10/30 東映第1試写室
昭和30年に作られた内田吐夢監督作『たそがれ酒場』をリメイク。
脚本も芝居も演出も野暮ったいなぁ……。by K. Hattori


 人気作詞家・荒木とよひさの映画監督デビュー作。原作は1955年に製作された内田吐夢監督の新東宝映画『たそがれ酒場』。灘千造の脚本を『トラック野郎』シリーズの中島信昭が脚色している。オリジナル版では歌劇(オペラではなく浅草オペラのような大衆歌劇)が物語の背景にあったようだが、リメイク版の舞台はジャズクラブ。時代設定も現代になっているが、映画の基本的な構成や各エピソードはほとんどがオリジナル版を踏襲しているようだ。(オリジナル版は未見だが、あらすじはキネ旬のデータベースで読むことができる。)タイトルの「A列車」とは言うまでもなくジャズのスタンダード「Take the A train」からの引用。劇中でももっとも盛り上がるのは、この曲の演奏シーンだ。

 老舗のジャズクラブ「A-Train」を舞台に、店が開店する夕方から閉店して店の明かりが消えるまでの数時間を描いている。舞台を一カ所に限定し、登場人物が入れ代わり立ち代わり現れては消える古典的なグランドホテル形式だ。カメラは店の中から決して外に出て行かない。登場人物たちは多くが問題を抱えており、映画はそれぞれの人生の一断面に軽く触れながら、すぐに次のエピソードへとバトンタッチしていく。

 映画の作りがひどく古めかしいのに加えて、演出もモッサリしていて映画としての面白みがまるで感じられない。これはまず脚本がダメなんじゃないだろうか。単なるエピソードの羅列にならない何らかの工夫が、脚本段階で用意されていないように思えるのだ。映画は店の開店から閉店までの数時間を、映画としては標準的な1時間46分に圧縮している。だとしたら映画の味付けとして「時間の省略」部分をうまく使うのが常道だと思うのだが、ここではそれがあまり考慮されていないように思う。

 それにしてもこの映画の古くささは何なのか。原作が昭和30年の映画だとしても、それをリメイクするならちゃんと平成15年の映画にしてほしい。エピソードに「リストラ」などと現代的なキーワードをちりばめたところで、この映画に描かれている世界は昭和そのものであって、平成の現代を写し取ったものではないと思う。父親が借金の保証人になって娘が苦労するとか、恋人がやくざの下っ端でとか、子持ちのジャズ歌手が元夫につきまとわれてとか、もうそういうのは勘弁してちょうだい! まぁこういうエピソードがあったって構わないけど、エピソードが10あったらその中の5つぐらいは「いかにも今だなぁ」と思えるものに差し替えるべきだろう。舞台装置だけを入れ替えれば、それで昭和30年が平成15年になるわけじゃない。問題は中身なのです。

 監督が元ミュージシャンということもあり、演奏シーンはよくできていると思う。若いサックスプレイヤーを演じた加藤大治郎(加藤剛の息子)は、本物のサックス奏者なんだそうです。さすが!

12月20日公開予定 新宿トーア
配給:シネマ・クロッキオ
(2003年|1時間46分|日本)
ホームページ:
http://www.atrain.jp/

DVD:いつかA列車に乗って
関連DVD:荒木とよひさ監督

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