飛ぶ教室

2003/10/03 映画美学校第2試写室
ケストナーの同名児童小説を現代ドイツに翻案した映画。
これは大人の鑑賞に堪えるクオリティだ。by K. Hattori

 エーリヒ・ケストナーは第二次大戦前後に「エーミールと探偵たち」「点子ちゃんとアントン」「ふたりのロッテ」など、今も読まれ続ける数多くの児童文学作品を書いたドイツの作家。作品の多くは舞台、映画、テレビドラマ、アニメなどになって、今も世界中の多くの子供たちに親しまれている。「飛ぶ教室」は1933年の作品だが、今回の映画が3度目の映画化だという。原作の舞台はもちろん第二次大戦前のドイツだが、映画は現代のドイツの物語に翻案されている。この映画を製作したプロデューサーたちは、これまでにも『ふたりのロッテ』『点子ちゃんとアントン』『エーミールと探偵たち』を映画化している。今回の映画はその中でも、一番よかったんじゃないだろうか。

 ライプツィヒにある寄宿学校に、ヨナタンという生徒が転校してくる。これまでに何度も学校を変わったヨナタンは、今度の学校になじめるのか不安でしょうがない。同じクラスになったのは、リーダー格のマルティン、腕っ節の強いマッツ、弱虫のウリー、秀才のセバスチャンといった面々。みんないい連中で、ヨナタンはあっという間に学校になじんでしまう。クリスマスに劇を発表することになったヨナタンたちは、学校近くの隠れ家で見つけた「飛ぶ教室」という台本を上演しようとするのだが……。

 物語の舞台が旧東ドイツのライプツィヒになっているのが、物語の後半で大きな意味を持ってくる。こうした点も含めて、この映画の作り手たちは70年前に書かれた原作を巧みに現代の物語にしている。主人公たちが合唱団のメンバーだという設定は、現代のドイツで原作に近い寄宿学校を探した結果だというが、これによって主人公たちがミュージカル風の劇を上演するという話に不自然さがなくなった。モナやマルティンのエピソードが薄いなど弱点も持っている映画だが、少年時代に育む友情の大切さや美しさを、これほど鮮やかに、しかも力強く描いてくれるとやっぱり感動してしまうのだ。

 僕はこれまでの映画3作と違って、今回の映画は原作を未読。それでも映画に登場する大人と子供の関係、特に「正義」とあだ名されるベク先生や、「禁煙」というあだ名のボブなどは、子供にとってまさに理想的な大人だろう。校長先生もちょっとトボケていて面白い。これまでの3本の映画に比べて、この映画は主人公たちの年齢がほんの少し上に設定されている。子供から大人へと成長していく年頃の子供たち。寮長の上級生や対立している通学組の生徒を登場させて、子供を取り巻く環境も厚みのあるものになっている。ほんの小さな描写から、子供たちそれぞれが抱えている様々な問題を感じさせたり考えさせたりする手際も見事だ。こうすることで、子供たちのキャラクターがみんな生きてくる。

 映画の最後にある劇中劇あたりから、僕は感動モードに突入。この手の映画を観ていて、久しぶりにちょっと涙が出ました。

(原題:Das Fliegende Klassenzimmer)

冬公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:メディアスーツ
(2003年|1時間54分|ドイツ)
ホームページ:
http://www.mediasuits.co.jp/tobu/

DVD:飛ぶ教室
原作:飛ぶ教室(ケストナー)
関連DVD:トミー・ヴィガント監督
関連DVD:ふたりのロッテ
関連DVD:点子ちゃんとアントン
関連DVD:エーミールと探偵たち
関連DVD:ファミリー・ゲーム

ホームページ

ホームページへ