実録ヒットマン
北海の虎・望郷

2003/09/26 東映第1試写室
脚本の嗜虐趣味にうんざりさせられる安普請のやくざ映画。
元・アカレンジャー、誠直也の初主演映画。by K. Hattori

 日本有数のやくざ組織・侠勇会の新潟進出を阻むため、たったひとりで侠勇会幹部に斬り込んでいった金森組幹部の田畑浩介。組を守って10年の刑務所暮らしをした田畑だったが、組長は事態収拾のため田畑を破門。しかも入獄中に金森組は侠勇会と手打ちして、侠勇会は新潟に事務所を構えるようになっていた。出所して10年ぶりに故郷に戻った田畑は、彼を待っていた家族と共に平和な暮らしをしようと決意。だがロシアマフィアと組んで新潟の利権を独占しようとする侠勇会は、強引に金森組をつぶしにかかる。やくざ稼業を捨てて堅気になっていた田畑も、否応なしにこの動きに巻き込まれていくのだった……。

 たくさん映画を観ていると、年に何本かは「こんな映画がなぜ作れたんだろうか?」と首をかしげるような作品に出くわすことがある。この映画もそんな1本だ。主人公の田畑浩介を演じるのは誠直也。この名前を聞いても、おそらく誰も顔が思い浮かぶまい。映画を観て「なるほどこの人か!」と思い出すような俳優ですらない。70年代からずっと脇役として映画に出演し続けた渋い俳優だが、日本映画データベースで調べた範囲では、脇役俳優としてもそれほど出演作は多くないようだ。監督は岡田主。昨年『実録ヒットマン/妻・その愛』という映画を1本だけ撮っている。

 スタッフやキャストが無名でも面白い映画はある。だがこの映画が嫌なのは、観る人を不快にさせるところだ。話の作りがあまりにも不自然で理不尽。一度は堅気の道を歩こうとした主人公が、相手からの度重なる嫌がらせや挑発にも我慢に我慢を重ねるのだが、周囲の人々に危害がおよぶに至ってついに逆襲に転じるというおきまりの展開。しかしこうした話の場合、相手側の挑発や嫌がらせにも一定の合理がなければ話が不自然になる。ところがこの映画では、相手がなぜ主人公を挑発するのか、その根拠がまったく見つからない。刑務所を出た田畑はもはや金森組とは無関係の人間なんだから、そんな人間は放っておけばいいではないか。それをわざわざチョッカイ出して、窮鼠猫を噛むような状態に追い込んでいく理屈がまったくわからない。

 映画の中のフィクションだから、物語の中で女性がレイプされようがシャブ漬けになろうが構わない。しかし何の合理的な理由もなしに、「田畑には娘がおるそうや。やってまえ!」というのは乱暴すぎる。そうすることで、侠勇会にどんなメリットがある? 娘を傷つけられた田畑が、復讐の血をたぎらせるのは火を見るよりも明らかではないか!

 人間が傷つけられたり殺されたりすれば、それで観客が喜ぶものと勘違いした脚本にはうんざりさせられる。最後の銃撃戦や乱闘もリアリティ皆無。武藤敬司は超人ハルクか? 石原良純はつまらんところで死んでくれるな! 主人公たちが熱くなればなるほど、観ているこちらは冷めていくばかりという、へんな映画でした。

12月6日公開予定 新宿トーア
配給:東映
(2003年|1時間40分|日本)
ホームページ:
http://www.toei-video.co.jp/data/hitman/

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