ポロック
2人だけのアトリエ

2003/09/17 ソニー試写室
アメリカの抽象画家ジャクソン・ポロックの伝記映画。
監督・主演のエド・ハリスが役になり切っている。by K. Hattori

 1950年代のアメリカを代表する抽象画家ジャクソン・ポロックの伝記映画。俳優のエド・ハリスが初監督した作品であり、彼自身が主人公のポロックを演じてアカデミー賞にノミネート。共演のマーシャ・ゲイ・ハーデンは、この映画で助演女優賞を受賞している。3年前のアカデミー賞(この年の作品賞は『グラディエーター』)で注目されたこの作品が、遅まきながらも日本公開されることになったのは嬉しいことだ。

 映画は大盛況の個展会場で来場者からサインをねだられるポロックの姿を映し出すや、すぐさま時間を9年前に巻き戻す。アメリカが第二次大戦に参戦する直前の1941年。無名の抽象画家ポロックを、女流画家のリー・クラズナーが訪れたことから、ふたりの交際が始まった。リーはポロックの才能に驚嘆し、自分のコネを使って何とか彼を世に出そうとする。やがてペギー・グッゲンハイムにその才能を認められたポロックだったが、飲酒癖が高じて創作活動にも支障をきたすようになる。リーはポロックと半ば強引に結婚すると、彼を連れてロングアイランドに引っ越す。古い農家を改造して住まいとアトリエを作ったふたり。やがてそのアトリエで、ポロックはまったく独創的な絵画手法にたどり着く……。

 見どころは主演ふたりの演技合戦。アカデミー賞を受賞したのはリー役のマーシャ・ゲイ・ハーデンだったが、むしろエド・ハリスの役へののめり込みぶりに驚かされた。絵を描くシーンが何度も出てくるのだが、筆の運びや体の動かし方がじつにさまになっている。巨大な真っ白なカンバスに絵の具を塗りたくり、あっという間に絵を完成させてしまうシーンのものすごさ。エド・ハリスは映画を撮る10年ほど前からアトリエを借りて絵を描き始め、ポロックのスタイルを身に付けたのだという。すごい執念だ。

 この映画が目指しているのはポロックの生活を再現することであり、そこから観客がどんなテーマを読み取ろうと「どうぞご勝手に」という考えのようだ。映画の邦題には『2人だけのアトリエ』という副題が付いていて、日本の配給会社はこれを「ポロックとリーの愛の物語」として売ろうとしているようだ。なるほどこの映画は夫婦愛の物語にも見えるが、それは映画のひとつの解釈だと思う。しかし映画を観ればわかるのだが、この映画は夫婦愛の物語ではなく、やはりポロックという一個人の物語なのだ。(原題はそのままずばり『Pollock』だ。)リーはポロックの周囲に現れる「周辺人物」の一人に過ぎないのではないだろうか。映画の導入部にリーの姿はなく、映画の最後にリーはドラマから抜け落ちてしまう。

 この映画のポロックは最初から最後まで、孤独に生きて孤独に死んでしまう。ではこの映画は「天才の孤独」がテーマなのか? それもまた、映画のひとつの解釈だ。この映画は一言では表せない、広がりと含みを持った作品だと思う。

(原題:Pollock)

11月上旬公開予定 シャンテ・シネ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(2000年|2時間3分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.spe.co.jp/movie/pollock/

DVD:ポロック/2人だけのアトリエ
サントラCD:POLLOCK
原作洋書:Jackson Pollock: An American Saga
輸入ビデオ:POLLOCK
関連DVD:エド・ハリス
関連DVD:マーシャ・ゲイ・ハーデン
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関連洋書:Jackson Pollock

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