エデンより彼方に

2003/09/10 日比谷スカラ座2
ジュリアン・ムーア主演の文芸調メロドラマ。監督はトッド・ヘインズ。
50年代ハリウッド製メロドラマの文体をコピーしている。by K. Hattori

 『ベルベット・ゴールドマイン』のトッド・ヘインズ監督が、『SAFE』でもコンビを組んだジュリアン・ムーア主演で作った文芸調のメロドラマ。映画の舞台になっているのは1950年代後半のアメリカ。映画はその時代背景を再現するため、映画の作り方そのものを1950年代のメロドラマ風に仕上げている。登場人物の衣装やメイク、セットなどは原色をふんだんに使って、きらびやかなテクニカラーの発色を意識しているのだろう。台詞の掛け合いやテンポ、直接の芝居に関係がないちょっとした生活描写のための台詞。映画全体に寄り添うようにほぼベッタリと付随している音楽。オープングタイトルからエンドロールに至るまで、「なんだか昔の映画っぽいぞ」という作りで押し通している。

 50年代の古き良きアメリカ生活なんてものは、今ではもうパロディにしかならない。その極端な例が、マネキン人形を使ったブラックコメディ番組「オー!マイキー」だったりするわけだ。『エデンより彼方に』もほとんどパロディ。特に映画序盤は人物の出し入れまで含めていかにも作り事の世界で、観ていて感心するより先に笑ってしまう。しかしこの映画はそんなパロディめいた世界を「笑い」の方向に持っていかず、「虚構世界の人工美」とでも言うべき方向へと運んでいく。リアリズムを突き抜けた、完璧な虚構世界でこそ描ける真実がある。この映画は50年代のハリウッド・メロドラマから文体をコピーしつつ、まったく新しい現代の映画を作ろうとしているのだろう。

 1957年秋のコネチカット州ハートフォード。電器メーカーの重役夫人として地域の社交界でも知られているキャシーは、夫とふたりの子供に囲まれ幸せな生活を満喫していた。だがある日彼女は、夫の重大な秘密を知ってショックを受ける。なんとかこの問題を乗り越えていこうとするキャシーだったが、夫婦関係はギクシャクしていくばかりだ。同じ頃彼女は、新しい黒人庭師レイモンドと親しく言葉を交わすようになる。だが保守的な町では、白人の女性と黒人の男性が親しくすること自体が大きなスキャンダルだった。町の中でキャシーは次第に孤立していくようになるのだが……。

 映画の舞台になっている50年代のアメリカでは黒人に対する差別が大っぴらに行われていて、この映画の主人公たちはその差別を乗り越えていくことができない。時代があと10年違っていれば、キャシーとレイモンドはよき友人になれたことだろう。だがこうした差別は、はたして遠い昔話なのか?

 この映画は「黒人差別」と「同性愛差別」を同時に語ることで、我々が無意識のうちに差別に対して鈍感になっていることを指摘している面がある。「この町では黒人問題は置き得ない。なぜなら黒人がいないからだ」と黒人の面前で言い切る町の名士たちと同じ鈍感さを、ひょっとしたら我々も持っているのかもしれない。

(原題:Far from Heaven)

7月12日公開 シネマライズ、日比谷スカラ座2
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
(2002年|1時間47 分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/eden/

DVD:エデンより彼方に
サントラCD:エデンより彼方に
ノベライズ:エデンより彼方に(百瀬しのぶ)
輸入ビデオ:Far from Heaven
シナリオ洋書:Far from Heaven, Safe, and Superstar
関連DVD:トッド・ヘインズ監督
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