サハラに舞う羽根
2003/09/01 アミューズピクチャーズ試写室
友情を取り戻すためたったひとりで戦地に向かった男の戦い。
『エリザベス』のシェカール・カプール監督最新作。by K. Hattori
推理作家としても有名なA.E.W.メイスンが1902年に発表した冒険小説「四枚の羽根」を、『ROCK YOU![ロック・ユー!]』のヒース・レジャー主演で映画化したアクション・アドベンチャー映画。監督は『エリザベス』のシェカール・カプール。この原作はサイレンと時代から何度も映画化されていて、そのうちの何本かは日本でも公開されている。IMDbによれば、今度の映画は「四枚の羽根」6度目の映画化だという。
大英帝国の名高い軍人一族に生まれたハリー・フェバーシャムは、友人たちからの人望も厚い若きエリート士官。だがスーダンで起きた原住民の反乱を鎮圧するため部隊が派兵されると決まった時、ハリーは戦争に行くことを拒否して突然除隊してしまう。友人たちは彼を臆病者だと非難し、父親は家名に泥を塗る不肖の息子を勘当。婚約者のエスネですら彼を軽蔑するようになる。友人と婚約者から送られた4枚の羽根。それは臆病者を意味するシンボルだった。彼は友人たちを裏切った自分の行いを恥じて、4本の羽を握り締めて単身スーダンへ向かうのだが……。
この映画を観ていてどうにも腑に落ちない感じがするのは、原作が書かれた時代と現代との戦争観や軍隊観の違いに原因があるのかもしれない。原作が書かれた当時は、健康な男なら戦争に行くのが当たり前、兵士たるもの命令がありさえすれば世界のどこにでも出かけて戦うのも当然だと考えられていたに違いない。しかし今は「良心的兵役拒否」が認められる時代になって、「戦争には反対しないし、戦争に協力するのもやぶさかではない。もちろん軍隊の存在にも異議は唱えないが、わたし個人は人殺しをしたくないし、自分が殺されるのも嫌だ」と言えるようになった。(日本は自衛隊の海外派兵について常にこうした立場をとっている。)こうした時代には、ハリーの除隊もそれほど非難される筋合いのものではないように思えてしまう。
そもそもが遠い外国の戦争にのこのこ出て行って大量の血を流すことに、いったいどんな意味があるというのだ? アメリカ・イギリス合作のこの映画でやりたいことは、結局のところアメリカ・イギリスが協力して進めた対イラク戦争の言い訳ではないのか? あまり政治と映画を結びつけて論じたくはないのだが、この映画を観ているとついそんな斜め読みさえしたくなってしまう。
雄大な砂漠の風景と、そこを舞台にした大規模戦闘シーンはすごい迫力。四方八方から押し寄せる騎馬兵士たちを、砂漠のど真ん中で角陣を作って防ごうとするイギリス兵たち。反乱軍の巧妙な罠によって、英軍は総崩れになっていく……。英軍の角陣が無数の敵を前に押し潰されていく様子が上空からの俯瞰ショットで映し出された瞬間、それが映画導入部のパーティー場面で描かれた「角陣」との強烈な対比効果を生み出す。スペクタクルシーンで久しぶりに鳥肌が立った。
(原題:The Four Feathers)
9月20日公開予定 日比谷映画他・全国東宝洋画系
配給:アミューズピクチャーズ
(2002年|2時間12分|アメリカ、イギリス)
ホームページ:http://www.saharanimau.jp/