ドッグ・ソルジャー

2003/08/01 映画美学校第2試写室
演習中に森の中で人狼の群れに襲われた兵士たちの運命は?
スピーディーな演出でテンポよくまとまった映画。by K. Hattori

 スコットランドの山岳地帯で演習中の小隊が、正体不明の敵に襲われ壊滅状態になった特殊部隊を発見する。現場には血糊と肉片が散乱していたが、死体そのものはどこかに消えていた。重傷を負いながらも生き残った特殊部隊のライアン隊長を保護し、小隊長のウェルズ軍曹や隊員のクーパーたちは救援を求めて山を降りることにする。だがその間にも数名の退院が何かに襲われ、ウェルズ軍曹も腹を裂かれて内臓が飛び出す重傷を負う。敵は森の中を二本足で走って移動する大柄な生き物だが、口と鼻がとがって全身毛に覆われた姿かたちや、銃撃を受けてもひるまず突っ込んでくるタフさは尋常な人間とは思えない。通りがかった車に拾われた隊員たちは、すぐ近くにある唯一の民家に逃げ込むが、そこはまるっきり無人になっていた。家の外にはあの生物が複数うろつき、虎視眈々と中に飛び込むタイミングを見計らっている。クーパーたちはドアや窓を封鎖して、外からの生物侵入を防ごうとするのだが……。

 モチーフになっているのはヨーロッパに古くから伝わる人狼伝説。それが群れをなしてプロの兵隊を襲うという、狼男版『エイリアン2』みたいな映画なのだ。人狼の性質については神話や伝説と少し距離を置きながら、満月の晩に人間が狼男に変身して人や家畜を襲うことや、人狼に襲われた人もまた人狼に変身するようになるという骨組みだけは生かされている。朝が来て太陽が昇れば、人狼はその超自然的な力を失う。兵士たちは残りわずかな銃弾で、何とかして朝まで持ちこたえようとする。はたして脱出のチャンスはあるのか。外部と連絡はつけられるのか。人狼に襲われ傷ついた人たちはどうなるのか。無人の家の住人たちはどこに消えたのか。森の中で特殊部隊は何をしていたのか。多くの謎や危険を物語のあちこちに散りばめながら、人間と人狼の戦いがパワフルに描かれる。

 監督はこれがデビュー作だというニール・マーシャル。脚本も監督自身が書いている。特殊部隊の非人間性を印象付ける冒頭のエピソードから、観客はあっという間に物語に引き込まれ、登場人物たちと一緒に森の中の小さな家に閉じ込められてしまう。このテンポとスピード感はなかなかのものだ。主人公格のクーパーはかつて特殊部隊入りを志願したほどの兵士だが、特殊部隊のライアン隊長と小隊長のウェルズ軍曹は傷つき、他の兵士たちは武装こそしているものの特に取り立ててヒーロー然としているわけではない。できの悪い兵隊ではないが、特別な兵隊でもない男たちが、明らかに普通じゃない事態にどう対処するのか。

 怪物の前ではあまりにも非力な人間たちが、ひとりまたひとりと夜の闇の中に消えていく。最後に誰が生き残るのか。それとも全滅してしまうのか。観ていてちゃんとハラハラドキドキできるのだ。ショッカー演出を控えめにして、登場人物たちの心理にフォーカスをあてる構成はなかなかうまい。

(原題:Dog Soldiers)

9月公開予定 新宿ジョイシネマ他、全国ロードショー
配給:ザナドゥー
(2001年|1時間44分|イギリス)
ホームページ:
http://www.dogsoldiersmovie.com/

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DVD:ドッグ・ソルジャー
サントラCD:DOG SOLDIERS
関連DVD:ニール・マーシャル監督
関連DVD:ショーン・パートウィー
関連DVD:ケヴィン・マクキッド
関連DVD:リアム・カニンガム
参考図書:狼男伝説(池上俊一)
参考図書:人狼変身譚―西欧の民話と文学から(篠田知和基)

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