法王の銀行家
ロベルト・カルヴィ暗殺事件

2003/07/24 東映第2試写室
82年にイタリアを震撼とさせた金融スキャンダルを実録映画化。
登場人物が多いうえ、相互の関係が複雑すぎる。by K. Hattori

 1982年6月18日、ロンドンのテムズ川にかかるブラックフライアーズ橋で、イタリアのアンブロジアーノ銀行頭取ロベルト・カルヴィが首をつって死んでいるのが発見された。この映画は現在明らかになっている捜査資料や関係者の証言をもとに、カルヴィの市に至るバチカンの金融スキャンダルに迫る実録政治サスペンス映画だ。

 バチカンのスキャンダルとしては、『ゴッドファーザーIII』にも描かれた法王ヨハネ・パウロ1世の暗殺疑惑が有名だし、第二次大戦中の法王ピオ12世がナチスのユダヤ人虐殺を容認していた疑惑もある。カルヴィ暗殺はバチカン銀行の不正な資金融資にまつわるスキャンダルのようで、当時はイタリアで大変な話題になったという。ただしこれは映画を観ていても、何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。登場人物の数が多いし、それぞれの利害関係が複雑に入り組んでいるし、イタリアの人名は覚えにくいし、出演している俳優たちは顔に馴染みがないし、おまけに映画を観ていた時間が昼食直後で眠たくなるしで、話がまったく頭に入ってこない。

 とにかく登場人物がみな強面なのに驚く。肩書きは聖職者や銀行家なのに、温厚な紳士の顔をした人がひとりもいない。どう見てもマフィアの集会なのだ。なにしろ主人公カルヴィ破滅の一因となったバチカン銀行総裁マルチンクス大司教を演じているのは、『コンフェッション』で殺し屋役だったルトガー・ハウアー。その彼が映画の中では小物に見えるくらいに、他の登場人物たちは押し出しの立派な面構えをした連中が揃っている。『ゴッドファーザー』の脇役連中もそうだったけれど、どいつもこいつも一癖二癖ありそうな悪党づらなのだ。劇中にはローマ法王ヨハネ・パウロ2世も登場するが、これは常に後姿になって顔が映らない仕掛け。一応はそれなりの敬意を払っているようだが、そもそもこの男が諸悪の根源という気もするしなぁ……。(ヨハネ・パウロ2世はロナルド・レーガンと並んで、冷戦末期の80年代に活躍した反共産主義の闘士なのだ。最近法王の影が薄いのは単に高齢のためだけでなく、東西冷戦という世界秩序のダイナミズムが消滅したからかもしれない。)

 追い詰められたカルヴィ一家がバラバラに国外に脱出し、ロベルトひとりが巧妙な策謀によって殺されてしまう後半はなかなかスリリング。しかしなぜ彼が殺されなければならなかったのかという肝心なところが、まったくわからない。これは「事実をありのままに」ということだと、現時点でここまでしか描けなかったということなのだろうけれど、多少の脚色を施して「事件を大胆に推理!」とか「真相はこうだ!」と思い切った踏み込みを見せたほうが、映画作品としてはスッキリとわかりやすくなったのではないだろうか。『仁義なき戦い』の笠原和夫なら、この素材をどう料理したかなぁ……と思わせる映画だった。

(原題:I Banchieri di Dio)

9月下旬公開予定 新宿東映パラス3
配給:アルシネテラン
(2002年|2時間5分|イタリア)
ホームページ:
http://www.alcine-terran.com/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:法王の銀行家
関連DVD:ジョゼッペ・フェッラーラ監督
関連DVD:オメロ・アントヌッティ
関連DVD:パメラ・ヴィッロレージ
関連DVD:ジャンカルロ・ジャンニーニ
関連DVD:ルトガー・ハウアー
関連書籍:赤い楯(広瀬隆)

ホームページ

ホームページへ