死ぬまでにしたい10のこと

2003/07/10 松竹試写室
ある日突然ガンで余命2ヶ月と診断された若い母親の願いとは……。
サラ・ポーリー主演のヒューマンドラマ。後味がいい。by K. Hattori

 若くして結婚し、夫と一緒に幼い娘ふたりを育てているアン。突然の体調不良で医師の診察を受けた彼女は、自分が末期のガンで、余命は2〜3ヶ月しか残されていないと知らされる。23歳の若い肉体を蝕んだガン細胞はあっという間に全身に転移し、もはや手の施しようがなかったのだ。アンは悲観にくれながらも、この事実を自分ひとりで受け止めようと決意する。愛する人たちを、悲しませたくなかったからだ。その上で彼女は、残りの人生でやっておきたい10項目のリストを作り上げる。

 『あなたに言えなかったこと』のイザベル・コヘット監督が、サラ・ポーリー主演で撮った愛の物語。主人公があらかじめ決められた死に向かい確実に進んでいくという物語で、悲しい話であるのは事実だけれど、それほど暗くて重たい印象は残らない。それはこのヒロインが死を前にして、ひたすら前向きに今を生きようとしているからだろう。

 死を前にした人間が一念発起して何かを成し遂げるという映画には、黒澤明の『生きる』がある。しかしこの映画のヒロインは、『生きる』の主人公と違って「世のため人のために何かをしよう」と思っているわけではない。彼女は残された時間を、自分自身と家族のために使おうと決意する。残された時間の中で「私」と「家族」はどうすれば幸せになれるのか? 人生でやり残したことは何か? この世を去っても悔いがないと思えるようにするには、今何をしておくべきなのか?

 17歳のとき初めてキスした相手の子供を宿して結婚したアンは、夫や子供たちを心から愛しながらも、夫以外の誰かとセックスしたり恋をしたりしてみたいと願う。ヒロインが自ら望んで、三角関係の葛藤を作り出すのだ。おそらくこれが物語のポイントだろう。「夫や子供を愛しているなら浮気なんてすべきじゃない」と真面目な人は感じるかもしれないが、ここでヒロインが家庭を離れて利己的に振舞うからこそ、彼女のキャラクターに広がりが出てくる。

 彼女が作りたかったのは、自分だけの「秘密」なのかもしれない。家族の誰も知らない、自分だけの秘密。自分が死んだ後でさえ、家族の知らない「秘密」を共有する誰かは、この世の中で自分のことを思って生き続けるだろう……。

 全体に青みがかった画面が印象的。サラ・ポーリーがいいのは当然として、母親役でデボラ・ハリーが出演していることには驚いた。友人役のアマンダ・プラマーも素敵。しかし一番よかったのは、ヒロインの夫を演じたスコット・スピードマンだろう。夫のキャラクターがしっかりしていないと、ヒロインと新しい恋人との関係が「頼りない夫に不満を感じての妻の浮気」に見えてしまうのだが、スピードマンは妻を愛し妻に愛される一家の若い大黒柱を好ましい人物として演じていた。

 「死」をテーマにした映画にしては、後味がさっぱりしすぎだけれど、これはこれでいいのかもしれない。

(原題:My life without me)

10月公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ・他
配給:松竹 宣伝:樂舎
(2003年|1時間46分|カナダ、スペイン)
ホームページ:
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DVD:死ぬまでにしたい10のこと
原作洋書:Pretending the Bed is a Raft (Nanci Kincaid)
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