あるがままの僕ら

2003/06/03 東京日仏学院エスパスイマージュ
『私家版』のベルナール・ラップ監督がスペインで撮ったコメディ。
主人公たちの普段の生活をもっと掘り下げてほしい。by K. Hattori

 『私家版』や『他人の味』など上質なサスペンス・スリラー映画で知られるベルナール・ラップ監督が、初めて自分自身の脚本を映画化した作品。当然スリラーだと思っていると、これがコメディ映画だったことに少し驚かされる。劇中には命がけの犯罪が出てくるが、この映画の焦点はそこにない。そのためラップ流の緻密な犯罪映画を期待すると、印象のぼやけた映画と思われてしまうことだろう。

 孤児院出身のシャーリー、レオ、マックスの3人組は、育ての親であるパブロが危篤状態だという知らせを聞いてベルギーの“実家”に集まる。そこで3人が見たのは、鉄くずで作られた巨大な聖母像。唯物史観の共産党員で、3人が知る限りずっと無神論者で通してきた養父パブロに、いったいどんな心境の変化があったのか? パブロは3人に「最後の願い」として、かつてスペインで見たことがある非公開の聖母像を手に入れて欲しいと言うのだ。3人はスペインに行って、かつてスペイン内乱に義勇兵として参加した養父の親友たちから話しを聞く。それによれば、問題の聖母像は現在警察宿舎の中に厳重に保存されており、こっそり持ち出すのは困難とのことだったのだが……。

 主人公3人組を演じるのは、『幸せな日々』『将校たちの部屋』のジャン=ミシェル・ポルタル、アメリカ映画『マーシャル・ロー』にも出演しているサミ・ブアジラ、そしてセドリック・クラピッシュ監督作のレギュラー俳優ロマン・デュリス。『ブレイド2』や『テキサス・レンジャーズ』に出演しているレオノラ・ヴァレラが、情熱的なスペイン女性アンヘラ役を演じている。このアンヘラ役が、映画の中では一番魅力的な人物かもしれない。

 物語を大雑把に言えば「警察署からお宝を盗み出せ!」という泥棒映画になる。しかし映画を観ると、作り手があまりそこに興味を持っていないらしいことは明らかだ。ではどこに興味や関心があるのかと言うと、それは老人と青年たちとの世代を越えた交流ということになるのだと思う。ラップ監督は『私家版』や『他人の味』でも、やはり世代を超えた人物同士の交流(それがポジティブなものである場合もあれば逆の場合もある)を描いていた。スペイン内戦でフランコ軍に敗れた元義勇兵たちが、老人になった今、自分の息子や孫たちの手を借りて体制側に一泡吹かせようとする。初めは嫌々この計画に参加した主人公たちも、いつしか老人たちとの関係に一体感を感じるようになる。

 しかしこうした人間ドラマを描くにしては、この映画は主人公たちの人物像が薄っぺらだ。そもそもこの3人は、普段どんな生活をしているのかさえわからない。(アンヘラに魅力があるのは、彼女の仕事や生活が見えるからだろう。)主人公たちの生活や性格がもっと強調されて物語に深く関わるようになると、映画はずっと面白くなったと思う。

(原題:Pas si grave)

2003年6月18日上映予定 第11回フランス映画祭横浜2003
配給:国内配給未定
(2002年|1時間38分|フランス、ベルギー、スペイン)
ホームページ:
http://www.unifrance.org/

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