左側に気をつけろ
/郵便配達の学校
2003/04/03 映画美学校第1試写室
ジャック・タチの脚本主演短編と、初監督作となった短編映画。
ごく簡単にですが、内容と感想を書いておく。by K. Hattori
ジャック・タチの脚本主演で1936年に作られた短編『左側に気をつけろ』と、戦後の47年に初監督作として作った短編『郵便配達の学校』を観た。以下、それぞれの簡単な内容紹介と感想。
『左側に気をつけろ』はタチの監督作ではなく、監督はルネ・クレマンが担当している。ひょんなことからプロボクサーの練習に付き合わされる羽目になった作男だったが、見るのとするのとでは大違い。シャドウボクシングでならそれなりの格好が付く男も、リングに上がればプロを相手にきりきり舞いさせられる。あわててボクシングの教則本を見ながらのスパーリングとなったが、その教則本は裏から読むとフェンシングの教則本になっているというもので……。
一応台詞はあるものの、内容はほとんどサイレント映画。見せ場はすべてパントマイムの芸だし、物語のキーになる部分には一切台詞がからまない。例えば主人公の作男が、ボクシングの様子を見ながらひとりで真似事をするシーンとか、教則本の取り違えシーン、教則本がなくなってニワトリのしぐさを真似るシーンなど。これらはすべて、台詞のやり取りなしで成立している場面なのだ。
タイトルからもわかるとおり、後にゴダールが『右側に気をつけろ』でオマージュをささげた作品。僕はゴダールの映画も観ているけれど、どこがどうオマージュだったのかさっぱりわかりません。でもゴダールのおかげで、忘れ去られていたこの映画に再び脚光を浴びるようになったのだというから、まぁゴダールもたまにはいいことするね。
(原題:Soigne ton gauche)
映画としては『郵便配達の学校』が断然面白い。2年後の『のんき大将脱線の巻』の原型となった作品で、郵便配達夫のフランソワというキャラクターがそのまま登場する。自転車を使ったギャグなど、構成が少し違うが中身はほとんど同じ。僕はてっきり流用なのではないかと思ったくらいだが、一応別々に撮っているようだ。(一部流用もあるらしいけどね。)
『のんき大将』と『郵便配達の学校』の最大の違いは、大急ぎで郵便配達をしなければならない理由。『郵便配達の学校』では急ぐ理由が、郵便用の飛行機に時間以内に郵便物を届けるためという設定になっている。つまりフランソワは、職務のために自転車をぶっ飛ばしているのだ。これが『のんき大将』ではデタラメなニュース映画に登場したアメリカの郵便配達夫へのライバル意識という、まったく意味のない動機付けに変更された。これはこれで面白い。でも僕は、ひとつの任務のために精一杯努力して、その結果あれこれ面白おかしいことが起きる『郵便配達の学校』の方が素敵に思えた。
郵便局で出発前に自転車こぎの練習をする場面は、『ぼくの伯父さんの授業』でロングバージョンが作られている。このシーンは長いほうが面白い。電報の渡し方の違いというギャグが、『郵便配達の学校』にはないのだ。
(原題:L'ecole des facteurs)
2003年初夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ、テアトル梅田
配給:ザジフィルムズ
(1936年・1947年|12分・13分|フランス)
ホームページ:http://www.zaziefilms.com/
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