ギャングスター・ナンバー1

2003/04/01 GAGA試写室
かつて裏切ったボスの出所におののく初老のギャングスター。
一見ホモ映画のようだけど、本当は違うと思う。by K. Hattori

 ロンドンの裏社会を完全に牛耳る大物ギャングスターは、フレディ・メイズという男が30年ぶりに刑務所から出所してくると聞いて青ざめる。彼がこの裏社会に足を踏み入れたとき、ボスだったのが他ならぬフレディだったのだ。彼はフレディの下でみるみるうちに頭角を現し、彼の右腕にのし上がる。だがフレディがカレンという歌手と付き合い始めたとき、若いギャングスターはボスを憎むようになった。ライバル組織のフレディ暗殺計画を知ったとき、彼はその情報を自分の手の中で握りつぶす。そして運命の日。野心と憎悪に目をぎらつかせるギャングスターの目の前で、フレディとカレンは殺し屋たちに襲われ血の海をのたうち回るのだった。フレディは一命を取り留めるが、この事件がきっかけでマークしていた警察に捕えられてしまう。残された組織を引き継いだギャングスターは、それから30年かけてフレディの帝国を何倍にも拡大させてきたのだが……。

 若いギャングスターが自分のボスを弑してその後釜に座るという物語だが、このギャングスターの裏切りは、イエス・キリストを売ったイスカリオテのユダに似ている。ギャングスターはボスのフレディを殺したいほどに憎む。だがそれは愛情の裏返しだ。ギャングスターはボスを愛するあまり、ボスそのものになりたいと願った。ボスのすべてを知り、ボスのすべてを受け継ぎ、ボスのすべてを独占したいと考えた。だがふたりの目の前に現れたカレンが、ある日突然ボスの心を奪ってしまう。ギャングスターはカレンをボスから遠ざけようとする。だがそれは無理だった。なんという堕落。なんという裏切り。フレディはギャングスターにとって、堕ちた偶像になってしまった。

 フレディが襲われた夜、ギャングスターはフレディを襲った対立組織のボスを残虐に殺す。これはギャングスターのサディスティックな性格が現れたものであると同時に、この回りくどい殺人劇を通じて、自分がフレディに成り代わって復讐を遂げ、フレディの後継者としての正当性を獲得したいという気持ちの現われだろう。この殺しは「儀式殺人」なのだ。だがフレディが生きている限り、ギャングスターは本当の後継者にはなれない。すべてに決着をつけるには、ふたりの男が直接対決するしかないのだ。

 55歳になったギャングスターをマルコム・マクダウェルが演じ、若い日のギャングスターをポール・ベタニーが演じている。カリスマ的なギャングのボス、フレディを演じているのはデヴィッド・シューリス。この映画に難点があるとすれば、シューリスの線がやや細くてヤクザ者としては少し貫禄不足に見えるところかもしれない。

 ギャングスターのフィレディに対する思い入れの中に、同性愛的な感情を見ることもできる。僕も最初はそう考えた。でもこれはやっぱり、キリストとユダなんだろう。ギャングスターの最後が、それを表しているように思う。

(英題:GANGSTER NO.1)

2003年5月公開予定 シネマライズ
配給:ギャガGシネマ 宣伝:ギャガGシネマ、アルバトロス・フィルム
(2000年|1時間43分|イギリス)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

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DVD:ギャングスター・ナンバー1
原作戯曲:Gangster No.1 (Louis Mellis, David Scinto)
関連DVD:ポール・マクギガン監督
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関連DVD:マルコム・マクダウェル (2)
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関連DVD:サフロン・バロウズ

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