人斬り与太・狂犬三兄弟

2003/03/07 東映第2試写室
深作&文太による『人斬り与太』シリーズの第2弾。
おそらくこれが『仁義の墓場』の原型だと思う。by K. Hattori

 『現代やくざ・人斬り与太』の好評を受けて作られた続編だが、前作で主人公が死んでいるため当然のこと「後日談」ではありえない。タイトルは同じだが、これは同一コンセプトの別作品で、主演の菅原文太、監督の深作欣二、ヒロイン役の渚まゆみなどの他は、ほとんど共通点がないと言ってかまわない。前作では主人公が愚連隊上がりの半端なやくざという設定になっているが、今回の映画では主人公・権藤勝男は最初からやくざだ。組織の中で上昇志向の強かった男が、その我の強さゆえに組織からはみ出し自滅していく。おそらくこの映画のモデルになったのは、後に『仁義の墓場』で取り上げられる石川力夫ではないだろうか。ただし『仁義の墓場』の渡哲也が徹底的に陰気なのに比べ、『狂犬三兄弟』の菅原文太はカラリと明るく軽いのだ。

 村井組の下っ端やくざ権藤勝男と弟分の大野は、対立組織・新生会の会長を刺殺。勝男は「戻ってきたら金バッチ!」と、意気揚々と数年の服役生活を勤め上げる。ところがいざ出所してみれば、村井組と新生会は手打ちを済ませて共存共栄関係。むしろ村井組では、トラブルメーカーの勝男をもてあまし気味だ。「誰のおかげで今の組があると思ってるんだ」と、大野とつるんで身内からカツアゲをする勝男。だが組長や幹部からきつくお灸をすえられると、今度は違法な売春バーを経営し始めて羽振りがよくなってくる。ところがこれを面白く思わない新生会は、勝男のバーが違法売春をしていることを警察に密告。かくして勝男たちは再び無一文になってしまうのだが……。

 『現代やくざ・人斬り与太』で渚まゆみが演じていたヒロイン像は、この映画においてさらに純化されている。田舎から出てきた若い女が勝男に犯され、売春バーで客を取らされそうになるが、彼女は徹底的にそれを拒む。機会あらば逃げ出そうと、時には一糸まとわぬ姿で通りに走り出す女。だが勝男が売春商売をやめた途端に、今度は彼女が勝手にバーに居ついてしまう。結局この映画の中で、渚まゆみが受け入れた男は文太演じる勝男だけなのだ。しかも彼女は、彼女にとってたったひとりの男である勝男の子を身ごもり、たったひとりで産み落としてみせる。女の弱さと強さが、このヒロインの中に凝集している。主人公とヒロインの関係は、その後の『仁義の墓場』で見られる渡哲也と多岐川裕美の関係の雛形になっているのではないだろうか。男にとって夢のような女です。

 主人公たちが際限なく堕ちて行く先にある修羅を、田中邦衛が演じる大野と家族の関係で描ききるのもすごい。金がなくなった大野が、ばた屋をしている母と弟の暮らすあばら家を訪ねて金を巻き上げる。生活のためにどうしても必要な金にまで大野が手を伸ばした瞬間、母と弟の中に発作的に芽生える殺意。自分たちが生きんがために、もっとも身近な人間に手をかけるという凄惨な殺しの現場だ。

2003年4月26日〜6月8日予定 三百人劇場
配給:東映 問い合わせ:アルゴピクチャーズ、オフィスサンマルサン
(1972年|1時間26分|日本)
ホームページ:
http://www.bekkoame.ne.jp/~darts/

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