Touch a Dream
夢 追いかけて
浜名湖発 学び座

2003/02/26 映画美学校第2試写室
パラリンピック水泳のメダリストにして全盲の中学教師・河井純一。
その歩んできた道を本人主演で映画化している。by K. Hattori

 パラリンピック水泳の金メダリストであり、公立学校としては初めて全盲の中学教師になった河井純一さんの伝記映画。子供時代と中学高校時代を演じているのは役者だが、教員採用試験に受かって以降の河井さんを演じているのは、なんと河井純一さん本人だ。かつて同じような例として、サリドマイド児として生まれた辻典子さんの生涯を、辻典子さん本人の主演で映画化した『典子は、今』という作品があったことを思い出した。サリドマイドの場合は身体的な特徴があるので、普通の役者には演じられないという事情もあるだろう。しかし視覚障害の場合は、目の見える役者が盲人を演じても何ら差し支えない。しかしそれでもここに“本人”を持ってきたのは、映画を観る人たちに「河井純一」という人物を直接知ってほしいという作り手の願いが込められているからだと思う。河井さんの演技はぎこちない。しかしそのぎこちなさの中に、ひたむきに生きてきた本人の人柄がにじみ出ているように思う。パラリンピックのトップアスリートとして練習や試合に励むシーンも、役者や吹替えを使っていてはこの迫力が出なかっただろう。

 監督は『羊のうた』の花堂純次。脚本は大ベテランの布勢博一。ともにテレビ畑出身者だが、一緒に組むのは今回が初めてのようだ。演技者としてはまるで素人の河井純一さん周辺に、三浦友和、田中好子、船越英一郎などのベテランを揃えてまとめる盤石の作り。誰もが出しゃばらず、淡々と自分のポジションで仕事をしている映画だ。何しろこの話は、もとになる河井純一さんの存在そのものがユニークすぎるのだ。市井の平凡な生活を平凡に描けば(それはそれで技術が必要なのだが)、それだけで主人公の非凡さが浮き上がってくる仕組みになっている。

 子どもの頃からの夢を追いかけ、実現させてしまった河井純一さんという人は、おそらく相当に立派な人なのだと思う。家族にも人には言えない苦労があったと思う。そんなわけで、この主人公についてはあまり映画的にいじくり回せない。映画の中で楽しいのは、主人公を取り囲む友人や町の人たちだ。純一の目の障害を気づかいながらも、特別視することなくひとつの「個性」として受け止めている友人たち。その悪ガキぶりやオッチョコチョイぶりが、映画の中に健康的な笑いを振りまく。

 努力家で学業成績もトップクラス。さらにスポーツでも、パラリンピックのメダリストという主人公。これをそのまま映画化すれば、文武両道の理想化された人物になってしまう。そこにいかにも人間くさい友人たちをぶつけてくることで、主人公の人柄に幅を持たせているのがこの映画のミソだと思う。中学や盲学校の恩師も、脚本に書かれた人間くさい部分をうまく引き出して、ふっくらとした面白い人物に仕上げている。特別なところは何もない映画だが、むしろこうしたいかにも普通な感じが、この映画には似合っているのだ。

2003年4月26日公開予定 銀座シネパトス他
配給:グルーヴコーポレーション、ゼアリズエンタープライズ
(2003年|2時間49分|日本)
ホームページ:
http://www.groove.or.jp/movies/yume/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:夢 追いかけて
原作:夢 追いかけて(河井純一)
原作:生徒たちの金メダル(河井純一)
関連書籍:ぼくが映画に出たあの夏の日のこと―映画夢追いかけて撮影日記(河井純一)
原作:夢をつなぐ(澤井希代治)
関連DVD:花堂純次(監督)
関連DVD:布勢博一(脚本)
関連DVD:三浦友和
関連DVD:河井純一
関連DVD:勝地涼

ホームページ

ホームページへ