武勇伝

2003/02/20 TCC試写室
澤田謙也と魔裟斗が主演のバイオレンス・ムービー。
戦い続ける男たちの姿が清々しい。by K. Hattori

 アクション俳優の澤田謙也と人気格闘家の魔裟斗が、新宿歌舞伎町界隈でストリート・ファイトを繰り返すというハードなバイオレンス・アクション映画。監督は『蛇女』の清水厚。澤田謙也主演のアクション映画はこれまでにも『ホーク/B計画』や『カラー・オブ・ペイン/野狼』などを観てきたが、いささかナルシスティックなヒーローぶりが鼻についてあまり好きになれなかった。でも今回は共演に魔裟斗をぶつけて独り善がりなナルシストぶりを抑え、むしろ三枚目の顔を出そうとしているところが面白いと思う。

 新宿の片隅で流行らない小さなバーを開いている吾郎は、ニヒルな男を気取っているが気が短くて喧嘩っ早い男。そのバーに出入りして何かと吾郎にまとわりつくアヤは、以前キャッチでカモった男に街でからまれていた時、龍平という元ボクサーに出会う。行くあてもないアヤと龍平は新宿の街をさまようが、やがてアヤの行動から大きなトラブルに巻き込まれてしまう。やばい男たちに捕らえられたアヤは、吾郎の電話にSOSをコールするのだが……。

 澤田謙也が不良中年の吾郎を、魔裟斗が元ボクサーの龍平を演じているが、このふたりは序盤に一度すれ違うぐらいで、後半まで直接ぶつかり合うことがない。映画の中では吾郎の話と龍平の話が併走し、ふたつの物語をアヤという少女が結びつけるという構成だ。話らしい話はあまりない。男たちが行くところに喧嘩が起き、殴って、蹴って、ぶっ飛ばして……というシーンが続く。

 この映画のテーマは「暴力」そのものだ。あるいは暴力の中でしか自分を表現できない、「男=雄」の闘争本能がテーマとも言えるだろう。映画の中には吾郎とも龍平ともまったくタイプの違う、サラリーマンのオヤジが登場する。近藤芳正が演じている殴られっぱなしの中年サラリーマンが、この映画のテーマを明確にしていると思う。殴られたら殴り返せ。たとえ負けても相手にむしゃぶりつけ。戦いに勝ち負けは関係ない。しょぼくれていたサラリーマンは、戦いの中に身を投げ出すことで自分自身の殻を破り、解放されるのだ。

 映画のクライマックスで吾郎と龍平が戦うのも、そこに合理的な理由は何もない。同じ縄張りの中でオスととオスが出会えば、そこで必然的に戦いが始まるのが本能なのだと言わんばかりだ。この時点では映画を観ている側も、ごく自然にこのふたりの戦いを受け入れてしまう。「オトコがいる」「戦いがある」「当然じゃん!」という気分になっている。

 これを暴力礼賛映画だとは言えないかもしれないが、「オトコってそんなもんよ」「暴力ってそういうもんでしょ」と、暴力の存在を“肯定”してはいると思う。オトコの度し難いバカさ加減を、重量感のある暴力シーンにユーモアを交えながら描く映画。決して教育的でも道徳的でもないけれど、観終って清々しい後味が残る映画だった。

2003年3月22日公開予定 新宿東映パラス2
配給:アートポート
(2002年|1時間38分|日本)
ホームページ:
http://www.artport.co.jp/

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