オー・ド・ヴィ

2003/01/22 アミューズピクチャーズ試写室
岸谷五朗が函館のバーテンを演じる男と女のどろどろドラマ。
どこか根本的にわからないところがあるなぁ……。by K. Hattori

 函館港イルミナシオン映画祭の第5回シナリオ大賞グランプリ受賞作を、『月とキャベツ』『はつ恋』『命』の篠原哲雄監督が映画化した、ミステリアスでエロティックな物語。脚本は鵜野幸恵のオリジナル脚本をもとに、鵜野氏本人と篠原監督が共同で手を入れて決定稿にしているようだ。主演は岸谷五朗。競演に鰐淵晴子、小山田サユリ、松重豊、寺田農など。音楽は映画祭のディレクターでもある、あがた森魚が担当している。舞台となるのはもちろん函館。

 函館の海岸に、全裸のまま横たわる女の死体。数日ごとに見つかるその死体はどれも、恍惚と歓喜の表情を浮かべていた。事故か、自殺か、あるいは他殺なのか? 女の体内から発見されたのは、アルコール度数の高い蒸留酒。女たちを歓喜に誘い殺してしまうその酒の正体は?

 女性の連続不審死事件が物語の中で大きな役目を果たしているのだが、この映画はミステリー映画ではない。物語の中心舞台はバー「フィニステール」。岸谷五朗演じるバーテン順三郎と、彼と関係を持つふたりの女性についての物語がストーリーの全体。だがこれは三角関係の恋愛ドラマではなく、映画全体を通して順三郎の変容を描いているように僕は解釈した。

 タイトルの『オー・ド・ヴィ』とはフランス語で「命の水」という意味で、一般にはブランデーのことだ。それを映画の中ではもう少し広く定義し直して、ドロドロに発酵した有機物から蒸留分離された酒全般の意味で使っている。この映画の中では、何がオー・ド・ヴィの原材料になるのか? それは主人公・順三郎の人生や生き方そのものだ。バーに集まる女性たちとの自堕落な関係。特に鰐淵晴子演じるバーのオーナー、あやことの関係が映画の中では大きな比重を占める。物語に登場するもうひとつの材料は、務めているフランス料理店のシェフとSM的な関係に溺れている見習料理人の火露見。だが彼女は「順三郎とあやこ」という発酵しきった材料を温める火なのかもしれない。この若い女が火に関係することは、その名前からも明らかだし、映画の終盤に用意されているひとつのエピソードでより明確なものとされる。

 順三郎のドロドロに熟れきった生活は、火露見の登場で蒸留濾過され、美味なる酒オー・ド・ヴィに変化する。蒸留に必要なのは火と水。順三郎は店で高純度のオー・ド・ヴィをあおり、町をさまよったあげく海に突進する。ちなみにオー・ド・ヴィ=ブランデーのことを、日本語では「火酒」と言うらしい。

 よくわからない映画だった。海辺の女たちがなぜ死んだのかという謎はどうでもいい。それより僕がわからないのは、ラストシーンの順三郎が新しく生まれ変わったようには見えないことだ。火露見の人生が新しいステージに入ったことはよくわかるのだけれど、順三郎の人生はどう変化したというの? それともそもそも、僕のこうした映画解釈が間違っているのかなぁ。

2003年2月公開予定 銀座シネパトス
配給:アミューズピクチャーズ
(2002年|2時間3分|日本)
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