銀幕のメモワール

2002/12/12 GAGA試写室
戦争中に姿を消した二枚目映画俳優の行方はどこに?
ミステリーとメロドラマ仕立てで描くユダヤ人問題。by K. Hattori

 昨年のフランス映画祭横浜では『リザ』というタイトルで公開された、ジャンヌ・モローとブノワ・マジメル主演作。戦前の映画俳優シルヴァンについて調べていた若い映画監督サムは、古い資料の中からシルヴァンと一緒に写真に写っているリザという女性を発見。存命中のリザを発見すると、彼女からシルヴァンの話を聞く。それは戦争に引き裂かれた、悲しい恋の物語だった。

 結核療養所に入院中、撮影に訪れたシルヴァンと知り合い愛し合うようになったリザ。だが直接敵軍の攻撃を受けない山奥の結核療養所にも、戦争は理不尽な暴力の手を伸ばしてくる。シルヴァンは出征してドイツ軍の捕虜になり、療養所ではドイツ軍によるユダヤ人狩りが始まる。リザは院長に協力してユダヤ人たちを匿う。そこに捕虜収容所を脱走したシルヴァンが帰ってきて……。

 映画の中ではサムとシルヴァンがふたりとも、キリスト教徒として育てられたユダヤ人ということになっている。サムは自分ではまったく意識することなく、取材を通して自分自身の民族的なアイデンティティと向き合うことになるのだ。サムとシルヴァンの人物像には、自分自身もユダヤ人であるピエール・グランブラ監督の個人的な体験が反映されているのだという。サムは両親が自分をユダヤ人として育てなかったことをいぶかり、シルヴァンは自分自身の中にあるユダヤ的な血統を否定さえする。だが彼らはナチスによるユダヤ人迫害という事実に正面からぶつかっていく中で、自分自身の中にあるユダヤ人に気づき、ユダヤ人として生きることを決意するのだ。

 以前観た時も「ユダヤ人」というテーマには気づいていたのだが、悲恋物語というストーリーの側に心を奪われていて、この映画がこれほど強くユダヤ人問題を掘り下げていることに気づかなかった面もある。サムと両親の関係や両親の過去についてのエピソードは、リザとシルヴァンの物語には直接的に何の関係もない。だがこうのエピソードは、ユダヤ人という問題を考える時には絶対に避けて通れない。映画の原題は『Lisa』だが、映画はサムというひとりのユダヤ人青年が、リザを通して過去を見つめ、自分自身を再発見する話なのだ。

 ただしこうしたテーマを描くにしては、映画には中途半端なところも多い。サムとシルヴァンの二重性をリザというひとりの人物によって描こうとしているのだろうが、それがもっとあからさまになるシーンがあってもよかったと思う。音楽の使い方にしても、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」が突然出てくるとここだけが異様。それにダンスシーンでアステア&ロジャースのミュージカルナンバーを使えなかったのも残念。アステア&ロジャースの映画には、ガーシュインはもちろん、ジェローム・カーン、アービング・バーリンといったユダヤ人作曲家が参加しているんだけどなぁ。

(原題:Lisa)

2003年1月下旬公開予定 シネリーブル池袋
配給:ギャガ・コミュニケーションズKシネマ
宣伝:ギャガKシネマ、メディアボックス 協力:ナド・エンタテイメント
(2001年|1時間49分|フランス)
ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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