船を降りたら彼女の島

2002/12/10 東宝第1試写室
『がんばっていきまっしょい』に続く磯村一路監督の愛媛映画第2弾。
ヒロインを演じた木村佳乃に魅力が感じられない。by K. Hattori

 つい先日『群青の夜の羽毛布』が公開されたばかりの磯村一路監督が、『がんばっていきまっしょい』に続いて全編愛媛ロケで作った女性映画。数年ぶりに故郷に戻った25歳のヒロインが、東京で決めた結婚を両親に言い出せぬまま数日を過ごすというもの。主演は『模倣犯』の木村佳乃。寡黙な父親を大杉漣が好演している他、大谷直子、照英、烏丸せつこ、村上淳、その他かなり豪華なキャスティング。ただしこのキャストは日本映画のファンが「う〜む」と唸る豪華さであって、一般ウケする華やかさとはちょっと無縁だと思う。

 おそらく監督やプロデューサーとの関係で皆さん友情出演のような形で出演しているのでしょうが、この豪華さ、映画のまとまりという意味ではかえってあだになっているのではなかろうか。佐々木蔵之介、小山田サユリ、村上ジョージ、六平直政、綾田俊樹、ベンガル、斎藤歩、神戸浩といった顔ぶれが登場すると、それだけで観客の関心がそこに向かってしまって気が散るのです。これはヒロインを演じた木村佳乃に、これらの共演者たち(必ずしも同じシーンで共演しているとは限らないのだが)に負けない存在感が備わっていないからでもある。『がんばっていきまっしょい』の田中麗奈はもちろん、『群青の夜の羽毛布』の本上まなみに比べても、木村佳乃は影が薄い。確かにきれいな女性だとは思うけれど、この女優さんには中身がぎっしり詰まったような充実感が感じられない。要するに軽いのです。豪華な共演者が現れると、そのオーラにあてられてあちらにフラフラ、こちらにヨロヨロ、じつに危なっかしい。

 物語の構成そのものも、この主演女優の弱さを露呈する原因だと思う。ヒロインがなぜ父親に結婚報告ができないのか、その理由がさっぱりわからないまま、時間だけがずるずると過ぎていく。友だちに会ったり、風邪をひいて寝込んだり、初恋の人を捜して回ったりもするけれど、その先にあるゴールが「父親に結婚を打ち明ける」だけでは話として弱い。ヒロインがもっと魅力的であればこうした紆余曲折そのものがドラマになるのでしょうが、木村佳乃が主人公ではまったくお話にならないと思う。これはむしろ父親への結婚報告を冒頭に持ってきてしまい、あとは初恋の人探しや“三つ首さん”にまつわるミステリーで物語全体を引っ張ったほうがすっきりしたのではないだろうか。

 『がんばっていきまっしょい』は愛媛の風景が物語の中にごく自然に取り込まれていたように思うのだが、この映画はドラマの弱さも手伝って単なる観光地めぐりのようになってしまった。『がんばって〜』を観ると「あのウドンが食いたい!」と思えるのに、この映画を観ても魚が食いたいとも、道後温泉に行きたいとも、鶴姫ゆかりの神社に行ってみたいとも思えないのは僕だけかな。映画を招致した地元からの注文がいろいろあったのでしょうが、これは詰め込みすぎだろうに。

2003年2月公開予定 有楽町スバル座、ナビオTOHOプレックス
(愛媛では11月9日より先行ロードショー)
配給:アルタミラピクチャーズ 配給協力:東宝
(2002年|1時間52分|日本)
ホームページ:http://www.altamira.co.jp/kanojo/

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DVD:船を降りたら彼女の島
テーマ曲収録CD:STARTING POINT(押尾コータロー)
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