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2002/11/07 シネカノン試写室
魚喃キリ子の同名コミックを市川実日子と小西真奈美主演で映画化。
傷つきやすい青春期の心理を繊細に描き出す。by K. Hattori

 市街地から少し離れた海辺の女子校。高校3年の夏休みを目前に控えた桐島カヤ子は、同じクラスの遠藤雅美の存在がちょっと気になっている。ある日の昼休み、カヤ子は思い切って雅美を友だちとの食事に誘い、それをきっかけにしてふたりはとても親しくなった。2年生の時、停学処分を受けたことがあるという雅美。彼女はなぜ停学になったのだろう……。彼女の部屋にあるCDや画集に、自分よりもずっと大人びた趣味を感じるカヤ子。雅美の前にいると、急に気持ちが落ち着かなくなってしまう。やがて彼女は気づいてしまう。自分は遠藤雅美のことが、好きで好きでしょうがないということに。思い切って気持ちを告白したカヤ子に、優しくキスを返してくれる雅美。だが気持ちが通じ合ったと思ったのも束の間、雅美はカヤ子の前から突然姿を消してしまう。

 新潟出身の漫画家・魚喃キリ子の同名コミックを、『dead BEAT』の安藤尋監督が映画化。主人公のカヤ子役には『とらばいゆ』の市川実日子。雅美役には『阿弥陀堂だより』で初々しい演技を見せた小西真奈美。音楽は安藤監督とも以前からコンビを組んでいる大友良英が担当している。物語の舞台は具体的にどこという特定はされていないが、ロケは原作者の出身地である新潟を中心に行なわれているようだ。海辺のバス通りや人通りの少ない商店街など、どこか寂しげな風景が印象に残る。この映画では主人公たちの暮らす故郷の町が、必ずしも否定的なものとしては描かれていない。彼女たちの物語をしっかりと受け止める懐の深い風景。人を突き放すような冷たさや厳しさはなく、かといって郷愁という甘ったるさも持ち合わせていない風景だ。

 女の子を好きになってしまう女の子の話だけれど、同性愛の物語という側面はあまり強く押し出されていないように思う。むしろこの映画の中で目を引くのは、女子高校生同士の間にある微妙な距離感や気持ちの描写だろう。カヤ子と雅美が仲良くなっていくことに対し、昼休みに買うパンをうまく分けられなくなったと、遠回しな言い方で寂しさを表現する友人がいる。自分が知っている雅美の秘密を、洗いざらいカヤ子に話してしまうことで、知らず知らずのうちにカヤ子を深く傷つけてしまう雅美の親友がいる。親しいからこそ話せることがあり、親しいからこそ話せない気持ちがある。何かを語ることで人を裏切り、何かを語らないことで人を傷つける。

 カヤ子は雅美が好きで、雅美もカヤ子が好き。でも言葉としては同じ「好き」でも、その「好き」という方向性がふたりはちょっとだけずれている。このちょっとのずれが、ふたりの決定的なすれ違いを生み出すのだ。青ざめた夜道を、ふたりして延々歩き続けるシーンが素晴らしい。夜明けの空の明るさや空気の冷たさを、彼女たちは決して忘れないだろう。

 市川実日子はこの映画でモスクワ映画祭の最優秀女優賞を受賞した。

2003年2月公開予定 シネアミューズ
配給:オメガ・ミコット、スローラーナー
(2001年|1時間56分|日本)
ホームページ:http://www.omega-micott.co.jp/

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DVD:blue
原作:blue(魚喃キリコ)
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