ハードキャッシュ

2002/10/28 メディアボックス試写室
主演はクリスチャン・スレーターとヴァル・キルマーで脇にダリル・ハンナも。
出演者は豪華なのにどうしてこんなに安っぽいんだろうか。by K. Hattori

 クリスチャン・スレーターとヴァル・キルマー主演の犯罪アクション映画だが、作りが安っぽい上に演出の切れ味もない退屈な映画になっている。話はそこそこ面白いのだが、これはその物語をどう見せるかという部分で失敗しているのだろう。監督は日本でも『セイヴィア』が公開されているピーター・アントニエビッチ。凄腕の強盗が刑務所から出所したあと家族のために「最後の仕事」に取りかかるが、一度は成功したかに見えた仕事に思わぬ落とし穴があって……という定番のお話。スレーターは強盗グループの首領テイラーを演じ、キルマーは彼を追うFBI捜査官を演じているのだが、この捜査官というのがまた一筋縄ではいかないクセモノというお決まりのパターンなのだ。

 主人公のテイラーは知恵を絞った犯行計画とチームの統率力で、血を一滴も流すことなく大金を奪うという凄腕の強盗という設定。しかしこの映画の問題は、テイラーの凄腕ぶりが映画の序盤で一度も見られないことにある。映画の冒頭部でまずは水も漏らさぬ完璧な仕事ぶりを観客にアピールし、その後にさまざまな手違いから計画に狂いが生じる様子を描くという段取りを踏まないと、観客の側に「テイラーはすごい!」と印象づけられない。なぜ映画の冒頭でエピソードをひとつケチったのか。エピソードの構成をうまく配置すれば、あるいはいくつかのエピソードを入替えたりすれば、テイラーの剛腕ぶりはしっかりと観客の脳裏に印象づけられたはずだ。テイラーにとって強盗は天職。強盗のためのアイデアに天才的なひらめきを見せる、プロ中のプロのはず。それが映画に登場した途端に逮捕されてしまったのでは、かなり白けてしまう。

 映画の前半にある馬券場襲撃シーンはそれなりに面白く見られるのだが、ここで登場する強盗団のメンバーひとりひとりの個性が、もう少し前に強く押し出せないものなのだろうか。例えばメンバーのひとりとしてダリル・ハンナが出演しているのに、この映画における彼女の役割って何?と疑問に思うほど影が薄いのはどういうわけなのか。メンバーの中の兄弟コンビや、音楽CDを出すために金がいるという黒人青年など、各メンバーにそれとなくエピソードを分配しながら、それが人物の魅力アップにつながっていないのは不思議だ。

 映画の後半にはこの手の映画にお決まりのカーチェイスも登場するが、これがまったく迫力のない腑抜けたもの。撮影レンズのせいなのか編集のせいなのか、対象との距離感がつねにチグハグになって、ぐいぐい迫ってくるような迫力が感じられない。ひとつ前に進むと少し後退するような、なんともモタついたカーチェイスになってしまっている。こういう「お決まりのシーン」ぐらいは、きちんと一定レベルの仕事をしてくれないとなぁ……。
 
 ヴァル・キルマーは少し太っただろうか。今回は役柄のせいもあって、あまり芝居に精彩がなかった。

(原題:Run for the Money)

2003年1月11日公開予定 新宿ジョイシネマ3、銀座シネパトス他
配給:アートポート 宣伝:P2
(2001年|1時間39分|アメリカ)
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