白と黒の恋人たち

2002/10/09 GAGA試写室
フィリップ・ガレルの映画にしては個人的体験と距離をとっている。
ごく普通の恋愛映画としても楽しめるはず。by K. Hattori

 カトリーヌ・ドヌーヴが出演した『夜風の匂い』が日本公開されたばかりのフィリップ・ガレル監督だが、その最新作が早くも日本で公開される。正直言うと僕は『夜風の匂い』のどこが面白いのかさっぱりわからなかったのだが、今回の『白と黒の恋人たち』はとても面白く観ることができた。例によってガレル本人とかつての恋人ニコの関係がベースになっているのだが、これは単にガレルとニコの関係をなぞる映画ではない。ニコの死後も彼女との関係にこだわり続けるガレル自身が、この映画の主題になっている。

 主人公は若い映画監督のフランソワ。これはガレル監督本人がモデルだ。主人公の元恋人キャロルというのは、ニコがモデルになっている。ここまではいつものガレルの映画のパターンだ。主人公のフランソワは、死んだ自分の恋人キャロルについての物語を映画化しようとする。その映画の中では、死んだ恋人の名前がマリ=テレーズになる。演じるのはフランソワの新しい恋人リュシーだ。こうしてこの映画は、もともとあったガレルとニコの物語を核として、その写し絵であるフランソワとキャロルの関係性と新恋人リュシーの関係、さらに劇中劇に登場するマリ=テレーズ、そしてこの映画を作っている現実のフィリップ・ガレルという多重構造になってくる。

 劇中劇として撮影されている映画のタイトルは『残忍な無邪気さ』。これは本作『白と黒の恋人たち』の原題だ。つまりこの映画の中の劇中劇と、この映画自体がどこかでイコールの関係になるという、メビウスの輪のような不思議な関係性がここに生まれている。

 マリ=テレーズを演じるリュシーは、自分が演じている役にのめりこんでいくと同時に、その役のモデルになったキャロルに嫉妬する。役の上で彼女そのものになりきろうとする意欲と、彼女を理解すればするほど彼女と自分の違いに悩み苦しむことになるリュシー。彼女はフランソワを愛するがゆえに、彼がかつて愛した女性キャロル(マリ=テレーズ)になりきろうとし、同時に彼女に反発も感じる。リュシーは苦しみ抜いたあげくに、自分がキャロルの人生を演じるのではなく、自分自身も彼女のように生きることを選び取る。フランソワを愛する彼女には、それ以外に映画と実人生を両立させる方法がない。

 苦しみ悶えるリュシーに比べ、この映画に登場するフランソワという映画監督の何と呑気なことか。彼は自分の恋人の苦悩が少しも理解できず、自分ひとりが金策で苦労していると思いこんでいる。こうしたフランソワの姿は、ニコの死後、ひたすら彼女についての映画を作り続けたガレルの、自嘲的な自画像なのだろうか。まったく困った鈍感男。しかしそれは映画作家の特権で、フランソワ役のメディ・ベラ・カセムが超美形だったりもするのだけれど……。でも当初はこの役に、レオス・カラックスが配役されていたんだとか。

(原題:Sauvage Innocence)

2003年正月公開予定 シネセゾン渋谷
配給:ギャガ・コミュニケーションズ、ビターズ・エンド
(2001年|1時間57分|フランス)
ホームページ:http://www.bitters.co.jp/shirotokuro/

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DVD:白と黒の恋人たち
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