スワンズソング

2002/09/27 メディアボックス試写室
女子高生の薄気味悪さを前面に押し出した異色のアイドル・ホラー。
こういう映画に共感してしまうワタシって……。by K. Hattori

 バレエ教室に通う美少女姉妹の美奈と美月。だが教室から別々に帰宅した帰り道、妹の美月は何者かに誘拐され惨殺死体で発見される。同情に名を借りた世間からの好奇の視線に耐えられず、母と姉の美奈は事件の記憶から遠く離れた田舎の小さな町へと移り住む。だがそこで待ちかまえていたのは、学校でのイジメ、母の診療所への嫌がらせ、そして母娘の周辺で次々に起きる連続殺人事件……。事件の現場でしばしば目撃されるのは、殺された美月と同じ黄色いレインコートの少女だ。いったいこの不可思議な事件の真相は……?

 『殺し屋1』『金髪の草原』『ミスタールーキー』などの作品に参加した脚本家・佐藤佐吉が、女子中学生の飛び降り心中事件にインスパイアされて書き下ろしたオリジナル脚本を、これが商用映画デビュー作となる笠木望監督が映画化したミステリー仕立てのティーンズ・ホラー。主演の石川佳奈、共演の藤原ひとみ以下、今が旬のアイドルタレントが大勢出演する作品なのだが、この映画を「アイドル映画」だと思うと、これがじつにミョウチクリンなのだ。

 アイドル映画は主人公の女の子をいかにして可愛く、チャーミングに撮影し、その潜在的な魅力を引き出してくるのかが力の発揮しどころだろう。ところがこの映画、登場する女子高生たちが誰も彼もまったく可愛くない。ヒロインを含めた少女たちは誰もが皆、無表情なマネキンのような表情で喋り、感情のないロボットか操り人形のように画面の中を動き回る。そこに見えてくるのは、女子高生という“生きもの”に対して人々がうっすらと抱いている、言葉では表現しにくい違和感と嫌悪感だ。

 “女子高生”という特定世代の少女たちを、今の日本は比較的好意的に、あるいはポジティブな存在として位置づけていることが多いように思う。しかし彼女たちが身にまとっている特権性は、ポジティブな価値だけは計りきれない特殊なニオイを持っている。もちろんひとりひとりの少女には、十代の少女としてのそれぞれの個性があり、それぞれの意見があり、それぞれの人生があるのだろう。しかししれがひとたび“女子高生”という枠組みで語られはじめると、ひとつひとつの個性はかき消されて、その存在は匿名性を帯び始める。

 この映画は謎解きミステリーの体裁を借りてはいるが、映画の前面に強く押し出されてくるのは「女子高生は薄気味が悪い」「女子高生は気持ち悪い」「女子高生は恐い」というきわめてネガティブな主張だ。僕などは少なからずそう思う気配もあるので、この映画を観て溜飲の下がる部分もたくさんあった。別に僕は女子高生が嫌いではないけれど、駅や電車の車内や繁華街などで女子高生の集団を見つけると、ちょっと避けて通りますからね……。

 正統派のアイドル映画が好きな人には絶対お勧めできない映画ですが、僕にとっては「なるほど」と思うことの多い作品でした。

2002年11月9日公開 テアトル池袋
配給:ノーザンライツ、東京テアトル 宣伝:ホップスフィルムズ
(2002年|1時間58分|日本)

ホームページ:http://www.aa.alles.or.jp/~th_ikebukuro/sw.html

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:スワンズソング
関連DVD:笠木望監督
関連DVD:佐藤佐吉(脚本)
関連リンク:石川佳奈
関連リンク:藤原ひとみ

ホームページ

ホームページへ