スズメバチ

2002/09/25 日本ヘラルド映画試写室
倉庫荒らしと犯人護送中の警官隊がマフィア相手に大立ち回り。
映画3本分ぐらいの要素をギュッと詰め込んだ作品。 by K. Hattori

 アルバニア人マフィアのボスを護送する警官隊。海岸沿いの倉庫に忍び込んで、高額な電化製品を頂戴しようとするコソ泥グループ。ところがボスを奪回しようとする重武装の男たちが護送車を襲撃し、ボスを護送中の装甲車は這うようにして海辺の倉庫街へ逃げ込む。ところがそこには、品物物色中のコソ泥という先客たちがいた。こうして倉庫の中の警官とコソ泥の混成チームが、倉庫を取り囲むマフィアたちと血みどろの銃撃戦を繰り広げることになる。

 監督はこれが2作目のフローラン=エミリオ・シリ。護送グループのリーダーである女性警官に『クリムゾン・リバー』のナディア・ファレス。コソ泥グループのリーダーにサミー・ナセリ。その相棒にブノワ・マジメル。中心となる顔ぶれはわりと豪華だが、これらのメンバーも他の無名キャストと見事なアンサンブルを作っているのがすごい。コソ泥グループの他の4人も、ドイツ人とイタリア人の男性警官も、そして倉庫の警備員まで、キャラクターの描きわけがじつに見事。小さな役のひとつひとつにまで、それぞれの人生を感じさせる血の通った人物造形になっている。こうしてドラマの中核となる「倉庫の中」のメンバーを細かく描きつつ、「倉庫の外」にいるマフィアたちについては一切の人間的描写を省略してしまう割り切りのよさもいい。この見事な脚本は、監督本人とジャン=フランソワ・タルノフスキーの共作だ。

 映画の中心はコソ泥グループの中の人間関係にある。特にブノワ・マジメル演じる心優しいサンティノという青年が、この映画の実質的な主人公と言えるだろう。倉庫侵入前には緊張してすっかり震え上がっていた彼が、次々撃たれて倒れていく仲間を前にして、強くたくましく成長していく。グループのリーダーであるナセールが大けがで動けなくなると、サンティノが彼に代わってグループのリーダーシップを取る。この自然な選手交代は、グループ内での権力の委譲といったものではない。サンティノがグループをまとめるのは、身動きできないナセールを裏切りたくない、彼を見捨てたくないという、サンティノなりの精一杯の誠意に他ならない。固く握り合ったサンティノとナセールの両手の甲に、方位磁石のS極とN極の刺青が見えるシーンは泣かせる。このふたりの性格は、正反対であるがゆえに引かれ合うのだ。

 外部との連絡手段をすべて遮断され、使用できる銃弾にも限りのある主人公たちが、外部からの猛攻にいかにして耐えるか。また通常の伝達手段が使えない中で、いかにして外部とコンタクトを取るか。この2つがこの映画の原動力になる。この攻防をどう組み立てていくかも映画の見せ方のひとつだ。こうした映画で「そんな馬鹿な」というご都合主義的描写が多いと、観客は興醒めさせられてしまう。だがこの映画のアクションシーンは、最初から最後までまったく緊張感がゆるまない。これも見事だった。

(原題:NID DE GUEPES)

2002年11月上旬公開 渋谷東急他、全国松竹東急系
配給:ソニーピクチャーズ・エンターテインメント
(2002年|1時間58分|アメリカ)

ホームページ:http://www.suzume8.jp/

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