国姓爺合戦

2002/09/24 松竹試写室
明末の遺臣・鄭成功の生涯をアクションふんだんに盛り込み映画化。
「中国はひとつ」「台湾は中国の一部」という政治映画。by K. Hattori

 近松門左衛門の「国性爺合戦(こくせんやがっせん)」のモデルになった、中国・明朝の遺臣、国姓爺鄭成功(こくせんやていせいこう)の生涯を、日中合作で描いた歴史大作。17世紀半ばの中国では、270年以上に渡って中国を支配していた明が滅び、新たに北方満州族による清が中国を支配するようになっていた。明の将軍鄭芝竜と日本人の母の間に生まれた鄭成功は、明の復興を夢見て生涯を戦いに明け暮れる。中国本土の本拠を失うと、海上に出て力を養い、ついには当時オランダが支配していた台湾を占領する。日本で生まれて南京で学び、父と別れ、将軍として強敵の清と渡り合って、ついにはヨーロッパ人にも打ち勝ってしまうのだから、当初の彼の目的と多少の違いがあるとはいえ、まさに波瀾万丈の生涯と言えるだろう。

 監督は『南京1937』の呉子牛(ウー・ズーニィウ)。『南京〜』には中国人と結婚した日本女性の役で早乙女愛が出演していたが、今回の映画では主人公鄭成功の母親役で島田楊子が出演している。脚本は『南京1937』も書いた張翼平(チャン・イーピン)。こういうのが、監督と脚本家の趣味なのかもしれない。主演は趙文卓(チウ・マンチェク)。

 物語のスケールは大きいはずなのに、映画自体は小さく見える。これは脚本にしっかりとした骨がないからではないだろうか。歴史上の英雄である鄭成功という人物を今映画化するにあたり、人物をどのように掘り下げていくのかが中途半端になっているような記がする。彼を講談調の英雄豪傑にするのか、それとも強さと同時に弱さも持ち、悩みや苦しみも抱え込んだひとりの人間として描くのか……。その分かれ目が、どうにも曖昧になっている。人物配置や各エピソードから見るに、これは完全な娯楽作としてテンポよく進めていけばもっと面白くなるだろうに、そこに各登場人物それぞれが抱える葛藤などがからみついて、ストーリーの流れをせき止めているように思う。

 そもそもこのお話、途中から話がねじ曲がってしまう。清に滅ぼされた明を復興させるのが鄭成功の悲願だったはずなのに、クライマックスは台湾を支配するオランダ人をやっつけてめでたしめでたし……。これはお話としても非常にヘンだし、今この段階で鄭成功をこのように描くというのも、中国の台湾に対する考え方が反映されているようで恐ろしくもある。「台湾は中国の一部である」「台湾から外国資本を追い出し、本当の中国人自身が台湾の実権を握らなければならない」などというこの『国姓爺合戦』のモチーフは、現在の中国台湾情勢の中では非常に政治的なメッセージになるのではなかろうか。

 呉子牛監督は『南京1937』でも、中国政府の歴史解釈に添った形で無理矢理話をねじ曲げていたわけで、今回の映画も同じということかな。中途半端な政治プロパガンダ映画だなぁ、というのが僕の感想です。

(原題:国姓爺合戦)

2002年11月公開 シネ・リーブル池袋、銀座シネパトス
配給・宣伝:日活 宣伝協力:ライスタウンカンパニー
(2001年|1時間45分|中国、日本)

ホームページ:http://www.nikkatsu.com/movie/kassen/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:国姓爺合戦
エンディング曲:蒼き獅子(ウー・ルーチン)
関連書籍:国性爺合戦
関連書籍:鄭成功関連

ホームページ

ホームページへ