刑務所の中

2002/09/18 松竹試写室
花輪和一のベストセラーコミックを崔洋一が映画化。
観ると刑務所に入りたくなるヤバい映画。by K. Hattori

 拳銃不法所持で逮捕され3年の実刑判決を受けた人気漫画家・花輪和一は、出所後自らの刑務所体験を「刑務所の中」という作品にまとめた。この映画はその異色体験談を、『月はどっちに出ている』の崔洋一監督が映画化した実録・刑務所コメディだ。主演は山崎努。共演には香川照之、田口トモロヲ、松重豊、大杉漣など、クセのある実力派俳優たちがぞろぞろ。こうした個性派俳優たちが、劇中に散りばめられた小さなエピソードを形作っていくわけだが、すべてのエピソードをどっしりと受け止め、すべてを主人公の目を通した独自の世界観に塗り替えていってしまう山崎努という俳優のモノスゴさ。

 この映画は刑務所生活にまつわる雑多なエピソードを、「受刑者番号222番・花輪」という存在そのもので串刺しにした構成。この雑多なエピソードというのが中途半端な面白さではなく、どれも強烈な毒と皮肉に満ちたものばかりなので、それをまとめる花輪役が強烈な個性を持っていないと、映画は単なる刑務所の中の変わった話の寄せ集めで終わってしまう。しかしこの映画では、山崎努という老練な俳優が、その役目を見事に果たしている。すべてのエピソードは主人公の花輪の視点で描かれ、花輪の強烈な個性が、それらのエピソードの中におかしさを引き出してくるのだ。映画『刑務所の中』は普遍的な刑務所物語ではなく、あくまでも主人公の花輪和一にとっての、カッコ付の『刑務所の中』なのだ。そしてそれを納得させるだけの個性が、山崎努にはある。

 それにしても、この映画の面白さは何なのか。これが花輪和一という特殊な一個人にとっての刑務所体験だとわかっていても、この映画を観ていると刑務所という場所が何とも楽しげな場所に思えてくる。一生いるのはちょっとどうかと思うけれど、1週間か10日、あるいは1ヶ月くらい入ってみると、俗世を離れた結構いい暮らしができるような気がする。日常の中にある小さな変化や事件の中から、大きな喜びを見いだせる目が養えるような錯覚を覚える。禅寺で1週間座禅修行するなら、刑務所に半月いたほうがいいかもしれない。少なくともこの映画を観ていると、そんな気持ちにさせられてしまうのだ。

 それにしてもこの映画を観ると、人間にとっての「個性」というものがじつは自由の中には存在せず、極端な自由の制限と制約の中でこそ存分に発揮されるのだと言うことが見えてくる。人間が持つ世俗的な個性を徹底してはぎ取る装置であるはずの刑務所で、どうしようもなくクローズアップされてくるのが個人の個性なのだ。この映画に登場する受刑者たちの、なんと個性的なことか。しかもそれが、いちいち魅力的なキャラになっている。こうなるとますます「刑務所に入ってみたい!」と思ってしまいそうだ。映画を観ると刑務所に入りたくなるという意味で、この映画は非常にアンモラルで、反社会的な映画なのかもしれない。

2003年正月公開 シネクイント
配給:ザナドゥー
(2002年|1時間33分|日本)

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